今回はマーラーの交響曲の中でも私の一番好きな第9番を取り上げます。
さて、前回ご紹介したマーラーの交響曲第2番が「負けないぞ!という意思」をわかりやすく語った曲というのならば、今回ご紹介する第9番は「秘めたる想いを時に激情を交えながら、時にユーモアを交えながら語る」とでもいった感じでしょうか。
この曲はその4楽章の合計が大体80分ぐらいという大作(注1)ですが、多くの人にとっても特別なようで、数多いクラシックの作品の中でも飛び抜けた一曲と評価する方さえいらっしゃいます。
それでは、何がそんなにこの曲を特別な曲、飛び抜けた曲と言わせるのか。。。
自分の想いをそのまま曲として表現するマーラーという大作曲家が、自分の死を強く意識した時に書いた作品だから?彼が完成させた最後の作品(注2)だから?
私自身、この曲はここ一番、何か想うところがあった時に無性に聴きたくなりますが、逆に頻繁に聴きたいとは全く思いません。きっと同じようなことを思っている人も多いと思うのですが。。。笑
ということで、それらもひっくるめて、特別な曲、なのでしょう。
それでは、まずは30分ほど要する長大な第1楽章。作曲技法的にも特に優れていると言われる楽章ですが、マーラーが込めた感情の起伏が半端なく、感情移入の激しい演奏をのめり込んで聴くと本当に酔いそうになります。笑
ところどころに現れる心に沁み入るメロディの数々。。。特に弦楽器とフルートの絡みなどは、本当に天国的なイメージと言っても過言ではありません。その終わりがまた実にやさしく、美しい。
本当に名曲だと思いますが、この曲だけでかなりおなかがいっぱいになります。
第2楽章は一転して、のんびりとしたまるっきり雰囲気の違う曲で、1楽章の緊迫感がスゴかっただけに、何だか間の抜けた感じがして呆気に取られてしまいます(注3)。
ただ途中からは、そのぼ~っとした感じが急に引き締められ、この曲の持つ重い雰囲気に飲み込まれていくのですが、私としてはその方が落ち着くのも事実です。
第3楽章はその雰囲気を辛うじて保ったスピード感のある出だしで、どんどん進んでいきますが、その中盤で出てくる4楽章へのつなぎとなるメロディのきれいなこと。
それこそ天国的な印象すら受けるこの部分は、演奏さえ良ければ鳥肌が立ち、涙が出そうになること(注4)、必至です。
最後はスピード感を取り戻し、カッコ良く締めて、フィナーレへ。
そして最後に、また30分程度要する第4楽章。でも、この曲の中で一番感情が込めやすく、一番馴染みやすいという言い方もあるのかもしれません。
ともかくきれいで、ずっと鳥肌が立ちそうなメロディが流れていきますが、そこに込められた想いは恐らく「まだ死にたくない。世界はこんなにも素敵なのだから。」
そして、それをそう取るかどうかは聴き手の自由ですが、よく解説書等にはよくそんなことが書いてあり、確かにそんな風に聴けば、そう聴こえると思います。笑
でも、その「秘めた想い」は、聴く人によって違ってもいいのではないでしょうか?
もう全てが終わってしまい、全てがきれいな思い出に変わって、あきらめられなかったところも結局仕方がないのか?といった感じで進んでいく最後の最後に、「でも。。。」と想いを残す感じ、そして、その先が絶望だとは思えないところがこの曲の最も素敵なところだと思います。
それでは、私が好きな演奏を2つ。
まずは、バルビローリさんが指揮したベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の伝説的な演奏。(もしその伝説にご興味があれば、ネットで検索すればすぐ見つかると思います)
この演奏が好きな理由は、ともかく弦がよく歌っていて感情的な演奏に聴こえるのに、メリハリが利いていて粘りすぎた感じがなく、自分のその時の気分によって、色んな受け止め方が出来るから。
最近のラトルさん等の演奏は上手さが際立っていて、細部まで録音されているのですが、逆に分析的な聴き方を強いられているようで、簡単に言えば、酔いたくても酔えません。。。何でも適度が一番だという気がしてなりません。
【今見たら、この盤をYoutubeでアップしておられる方がおられましたのでご紹介しておきますが、もしリンクが切れていたら、ごめんなさい。2020.3.07】
そしてもう一つはその対極とも言うべき、山田一雄さんが新日本フィルハーモニー管弦楽団を指揮した90分を越える超熱演。
恐らく世界で一番感情移入した「酔える人には酔える、そう思えない人には耐えられない超ひどい」演奏。。。私はこの演奏が大好きですが、でも、体調が悪いととても聴けません。笑
そして、あまりにも感情をこめ過ぎ、遅く、粘った演奏となった結果、オケにとっても演奏するのはかなり困難だったのだと思いますし、もしこれがベルリン・フィルだったら?と思ってみたりもしますが、逆に慣れ親しんだオケが相手だったからこそこれだけの演奏になったのかもしれません。
いずれにせよ、この録音は山田一雄という日本の誇るべき大指揮者の残した貴重な宝物だと思いますので、ご興味があれば、是非チャレンジしてみてください。
【今見たら、この盤をYoutubeでアップしておられる方がおられましたのでご紹介しておきますが、もしリンクが切れていたら、ごめんなさい。
あと今回、改めて聴き直して思いましたが、こんなスゴい演奏の後は30秒ぐらい拍手もせず、その感動、余韻に浸りたいものです。。。2020.3.07】
それでは最後にYoutubeから。
何とか頑張って、最後の大輪を咲かせてほしい小澤征爾さんですが、彼が長年連れ添ったボストン交響楽団とのラストコンサートという特殊な状況で取り上げた演奏。感情移入度は低いものの、この曲の美しさを十分に引き出した演奏ですので、是非聴いてみてくださいませ。
(もしリンクが切れていたら、「小澤、マーラー、交響曲第9番、ボストン」もしくは「Ozawa,Mahler,9,Boston,Last」でご検索ください。)
(注1)この曲はその演奏時間が約80分と長く、その曲調から考えてアンコールもあり得ないので、演奏会では本当にこの1曲のみの公演になることが多いのですが、ベルリン・フィルが来日東京公演でこの曲を取り上げた時のこと。東京にいる私の知人の愛好家に羨ましさも込めて「行かれるのですか?」と尋ねたところ、その答えが実に秀逸?で「損した気がするから行かない」。
全てはこの演奏会のチケットが4~5万円もすることに起因するのですが、通常の演奏会なら休憩時間やアンコールも入れて120分は楽しめる演奏会が時間的には逆に90分程度と短くなり、時間単価にすると無茶苦茶高いがその言い分ですが。。。思いもしなかった返答に絶句してしまいました。
(注2)マーラーは次の作品である交響曲第10番を書いている最中に50歳の若さで逝去したので、この第9番が最後まで完成させた最後の作品となります。
但し、マーラーはその実演を聴いた後、楽譜に手直しするのが常だったそうで、この曲に関してはそれが出来なかった=完成度に問題があると言う方もおられますが、こればかりは何ともわかりません。
(注3)第2楽章について、この記事を書いた後、ちょっとした心境の変化がありました。実はこの間の抜けた感じというのは、異常な緊迫感の後だからこそ、大切なのかもしれません。
緊迫した空気の中でずっと過ごしていたある日、ふと頭の中をよぎったこの♪ドレミファソッソ、ドレミファソッソから始まるトボケたメロディ。。。すごく温かく感じられ、ちょっと肩の力を抜くキッカケになりました。
置かれた環境によって、音楽の捉え方が変わるのは知っていたことではありましたが、まさかこのメロディがあのキビしい状況の中であんな風に唐突に鳴るとは。。。無意識に私はこのメロディをそんな風に捉えていたということなのか、すごく不思議な、でも、ありがたい体験で、このメロディが好きになってしまいました。笑
(注4)「演奏さえ良ければ~涙が出そうになる」第3楽章の実例を一つ。昔々、大学に通っていた頃の話ですが、尾高忠明さんが指揮する大阪フィルハーモニー管弦楽団でこの曲を聴きに行った時のこと。実に素晴らしい熱演を繰り広げて迎えたこの個所で、何とあろうことか、隣で聴いていたお兄さん(その当時の感覚。実年齢は不明)が本当にぐすぐすと泣き出したのでした。あまりの出来事にそれまで盛り上がり高まっていた私の集中力がプツン!そして、その後も延々嗚咽をもらし続けるお兄さんにその演奏会は台無し。
ただ、以前は単に勘弁してくれよ~チケット代、返せ!ぐらいの悲しい記憶でしかなかったのですが、今となっては彼に何があったんだろう?と温かく思ってしまう不思議な思い出でもあります。
2012.9.8 20:39初出、2020.3.07追記改訂
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