今回、名古屋市地下鉄・名城線の六番町駅から徒歩3分、名古屋都市高速の六番北の入口前にあるジャズ・サルーン アーデンさんを訪問してきました。
広い駐車場とアーデン・ビルという大きな店構えにちょっと驚きながらも入店すると、広がる広い店内。その雰囲気はまさに昭和の喫茶店の味わい。
ただ、奥に鎮座するグランド・ピアノがライブのイメージを喚起し、その脇に控えたJBL S3100(注)という鳴りっぷりのいいスピーカーがジャズ喫茶であることを強く主張。
更に左奥にあるのは、この店が本格的なジャズ喫茶であり、老舗であることをさり気なく匂わせるレコード室。煙草の煙からオーディオ装置等を守るための場所で昔は当たり前のようにあったものですが、果たしてこのお店は36年の老舗。
66歳のこのマスターは、そんなお店の重ねた年輪がそのまま感じられる味わい深い方ですが、そんな方が過ごされた時代のお話やそこから得られた知見等を教えていただけることも、ジャズ・スポットを巡る醍醐味の一つ。
叔父がプロのサックス奏者という影響もあり、中学2年生からジャズにハマったというマスター。特にビル・エヴァンスが好きで、その来日ライブも聴きに行った早熟ぶり。
その後、東京に出られた10代後半から20代の多感な時期を人気漫才師のカバン持ちやTV番組の製作助手(知る人ぞ知るあの午後11時の番組。笑)として過ごされたとのこと。
ブレーク前のビートたけしさんに楽屋でお茶を淹れられた話やTV局の制作現場の話等の裏話に時代の空気感を身近に感じ、この時代はまだ東京には関西のお笑い文化が入っていなかった、というちゃんと認識出来ていなかった事実に時代の流れを感じたり、次から次へと続くお話に興味津々。
帰名されてからは、名古屋の有名楽器店で一時期働いた後、ご開業。
その後は山あり谷ありで、現在ではサックス吹きでもありますが、地元に根づいている方らしく、「お久しぶりです」みたいな逸話が多かったのも面白かった。
中学・高校時代、入り浸っていた栄のジャズ喫茶COCOのマスターであり、ギタリストでもあった和田直氏がこの店でライブをされた時、「あぁ、あの時の。。。」という再会※があったり、楽器店で働いていた時に客として知り合った無茶苦茶上手い大学生トランぺッターがプロとして大成。それが後年、この店でライブをやることになった原 朋直氏だったりと、縁が織りなす不思議な巡り合わせの数々。
※2021.5.2付マスターのFBのNo.668 マスターおすすめのCD「ココズ・ブルース/和田直」でこの詳しい話をご紹介されておられますので、ご参考まで。尚、この記事を読むまで知りませんでしたが、その和田氏がこの4月29日に亡くなられたとのこと。これも何かのご縁。和田氏のご冥福を謹んでお祈りいたします。
「今日はこの人が聴きたい気分なので」と途中でことわりを入れながらも、マスターが一貫して流していたのは、フィル・ウッズ(as)のアルバム。
フィル・ウッズだけを固めて聴いたこともなかったのでこれも楽しく、また、たまたま訪問した時間がクラシックからジャズに切り替わる時間だったのも、面白い縁。
その他、セントラル愛知交響楽団のメンバーによる室内楽演奏会を支援されていたお話やジャズのお話もあっちに飛び、こっちに飛びと色々な興味深い話を伺いました(注2)が、中でもこのエヴァンスのサイン入りアルバムをわざわざ持って来られた時のマスターの笑顔は最高でした。
やはり何かに夢中になっている人のパワーには元気をもらえます。。。ただ逆に、マスターも若い人からパワーをもらっているとのことでしたので、お互い様でしょうか?
店内を見渡すと、このお店がいい常連さん達に支えられていることがよくわかる飾り物もあれば、何だかどこかで見たようなお洒落なジャズ版画も数点。。。長崎・マイルストーンさんで教えてもらった戸井三千男氏の作品。やっぱりカッコいいなぁと改めて感心。
こうして初訪問を心ゆくまで堪能させていただきましたが、本当に楽しいのは、マスターのジャズの世界にどんどんハマっていく2回目以降の訪問。
コロナ禍もあり、なかなか次回訪問出来る日が読めませんが、早くその日が来ることを祈るばかりです。
【駐車場:有、喫煙:不可】
(注1)この店で鳴らしておられるJBL S3100はJBLのプロジェクトK2シリーズの一つで、九州のジャズ・スポットにはないシリーズ。。。ただ、同じシリーズのスピーカーを使っている藤が丘の靑猫さんとは音の方向性が全く違っていたことも興味深かったです。
靑猫さんではその主力ソースであるECMにピッタリの寒色系の音色でしたが、このお店はその真逆で、ジャズの熱さがよく出ている感じ。
物理的には、鳴らすシステム、空間(部屋)、音源等の違いだと思いますが、各マスターのジャズが反映された結果と言えば、一番わかりやすいでしょうか。これだから、ジャズ・スポット巡りはやめられません。
(注2)ジャズのお話でとても興味深かったのが、この店に来た若い外国人の方がおっしゃったというコメント「(かかっているジャズを聴いて)これはおじいちゃんが聴いていた音楽ですか?」
ジャズ喫茶文化は日本特有のモノ、という言い方があり、日本人である私としては「オーディオをメインでジャズを聴かせる」ことだけにその特異性があると思っていました。
でも、このコメントを聞いて考えさせられました。外国人の方から見た場合、実は上記に加え、流しているソース自体も「クラシック音楽」と位置づけてもいいぐらいのジャズ※、という意味も含んでいるのかもしれません。。。もちろん、店によって一概にそうは言い切れないことも知っていますし、私はそれ自体も好きなのですが。
※例えば、クラシック科ジャズ属ハードバップ、という言い方になるのでしょうか?
この極論に対してご意見等がございましたら、コメントいただけると幸いです。
【21.5.13追記】お陰様で九州ジャズ・ガイド第②号も下記のとおり無事完成いたしました。
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