天才の中の天才が集う現代将棋の世界は『社会現象を先取りした実験場』でもある。
これはもう今から10年以上も前のことになりますが、梅田望夫氏(注1)が「シリコンバレーから将棋を観る―羽生善治と現代(2009年発売) 」の中でご指摘されたことですが、幼い頃から将棋界をずっと横目で眺めてきた私にとってこの分析力と表現の的確さは驚愕で、未だに忘れられないフレーズとして残っています。
ポスト・コロナがどうなっていくのか?そんなことを考えながら、現在の将棋界を見たら、まぁ、面白いこと!
高校生棋士 藤井聡太七段がこの7月に渡辺明三冠を破って棋聖位を奪取した勢いのまま、今回木村一基王位(注2)も無傷の4連勝で破り、二冠獲得!二冠及び八段昇格最年少記録の更新という新たな勲章も引き下げ、高らかに新時代の幕開け宣言、といったところでしょうか。
ちなみに、藤井二冠が最初のタイトルである棋聖位を獲得する前の将棋界はまさに群雄割拠、この先どうなっていくのかよくわからない状況でした。
これまで「絶対王者」だった羽生善治九段の権威が遂に失墜~2年前に27年ぶりに無冠となり、30年連続で出場し続けてきたタイトル戦の番勝負にも昨年は遂に登場することが出来なかった中、8つのタイトルは二冠以上保持者3人と木村王位の4人で保持(注2)。また中でも象徴的だったのは、前期のA級順位戦(名人位挑戦者決定戦)の結果。トップ棋士10人が総当たりで戦い、その中で勝ち越せたのはわずかに3人で、その内の2人は5勝4敗。更には1人を除いた残りの6人全員が4勝5敗という凄まじい大混戦。
このどことなくすっきりしない混沌とした状況、次にどう進んで行くのかわからない膠着した雰囲気ですが、何となく新型コロナが流行る前の世の中と似ていたような気がしませんか?
そして今回の藤井新二冠誕生のニュースは「行き詰った世界を新しい価値観やこれまで想像もしなかった実力を持った新王者が一新していく」、「これまで築き上げてきた秩序が全く新たなものに取って代わられる」時代の始まりであり、その象徴のように思えました。
尚、現在の将棋界において新王者に対する高い壁であるべき第一人者は誰であろう、藤井二冠に最初にタイトルを献上してしまった渡辺三冠。そもそも羽生九段の次に天才棋士と騒がれた方ですし、棋聖位を失って二冠になったものの、先に書いたA級順位戦を9戦全勝して挑戦中だった名人位を見事に奪取し、すぐに三冠に返り咲いた実力者。。。この渡辺三冠を始め、他の棋士達がこの後どう対応していくのか?どんなドラマが展開されるのか?また藤井二冠の同世代のライバルは現れるのか?
一将棋ファンとしても、時代の流れの参考という意味でも楽しみに見守っていきたいと思っています。
(注1)梅田望夫氏は15年ほど前に「ウェブ進化論」という大ヒット本を書かれた方で、その当時ネットで面白い試みを連発していた株式会社はてなの取締役も務めておられました。
(注2)タイトル保持者(藤井二冠が棋聖位を獲得する直前2020年7月15日時点)
ここで驚くべきは、二冠以上保持者が3人の内、大器晩成・中年の星 木村一基王位以外(注3)は、遅くとも17歳でプロ入りする早熟の天才ばかり。
竜王・名人:豊島将之九段[90年生、07年16歳でプロ入り、タイトル4期(登場9回)、優勝2回]
叡王・王座:永瀬拓矢八段[92年生、09年17歳でプロ入り、タイトル2期(登場4回)、優勝2回]
王位: 木村一基九段[73年生、97年23歳でプロ入り、タイトル1期(登場7回)、優勝2回]
棋王・王将・棋聖:渡辺 明九段[84年生、00年15歳でプロ入り、タイトル25期(登場34回)、優勝11回]
尚、ご参考までに、昨年通算勝利数歴代1位を達成(1434勝)した羽生九段について同じように記すと[70年生、85年15歳でプロ入り、タイトル99期(登場136回)、優勝45回]。
それに対して藤井二冠は、本日8/22時点で[02年生、16年14歳でプロ入り、タイトル2期(登場2回)、優勝3回]。
この羽生九段の突き抜けた記録に対して藤井二冠がどこまで更新していかれるのか、それを他の棋士がどこまで阻止出来るのか、また捲土重来を期す羽生九段が今後どこまで記録を伸ばしていかれるのか。楽しみは尽きません。
(注3)今回王位を防衛出来なかった木村九段ですが、藤井二冠とはある意味、とても好対照な棋士ですので、少しご紹介させていただきます。
というのも、次々と記録を更新し、それまでの記録保持者にスポットライトを当てていくのはイチロー選手以来の愛知県人の特徴?等とツッコみたくなるのですが、藤井さんのWikipediaの注釈欄に書かれた「それまでの最年少記録は~」という始まりの多さはちょっと壮観です。
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