今回はあるコンサートを経験して以来、私にとって本当に特別な曲、ブラームスの交響曲第2番(略して、ブラ2)をご紹介します。
この曲は、第1番とは好対照な曲で、ティンパニーを伴う力のこもった出だしから最後まで、筋肉質で硬質な外面的カッコ良さを直線的に追求したイメージの第1番に対して、ホルンの朗々とした響きを伴う明るく肩の力の抜けた出だしから始まり、明るく温かく健全でゆったりした雰囲気の中、繊細な心の機微や揺れ動きを素直に描いた、という感じです。
さて話は変わってもう30年以上前のことですが、今のようにクラシックについて柔らかく紹介する媒体がなかった時代に唯一あったのが、「交響曲名曲名盤100」。面白おかしく名曲とその名盤を紹介するという作曲家の諸井誠さんの名著でしたが、それこそ擦りきれるぐらい読んで、まだ聴いたことのない作曲家の交響曲に憧れを抱き、なけなしの小遣いでその中で一番興味を持ったレコードを購入して、買ってもらったばかりのオーディオで何度も何度も聴く。。。これはこれで、本当に幸せな時代でした。
そして今思い返しても、この本で紹介されていた多くの名盤が未だに名盤として評価されていることから考えても、正しい羅針盤であったことは間違いありませんが、その影響力は絶大。。。この曲の頁には「ブラームスの田園と呼ばれるこの曲には何故か名盤がない」と書かれてあったように思うのですが、そのせいで世の中では「ブラ2名盤なし」説まであったようです(苦笑)。ただ、プラームスの「田園」といういう言い方は、その曲調も然ることながら、その前の「運命」という筋肉質で硬質な曲との対比という意味においても上手いと思う次第です。
さて、そんな諸井さんのおススメはカール・ベーム指揮ウィーン・フィル盤(注1)、また、先日亡くなった一時代を築いた大音楽評論家 宇野 功芳さんのおススメはピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団盤(注2)、そして、諸井さんはお好きではなかったようですが、熱狂的なファンを持つサー・ジョン・バルビローリ指揮ウィーン・フィル盤(注3)。
この3つの共通点はどれも老巨匠が特に構えることもなく自然体でいつもどおり気心の知れたオケと演奏していること、オケがさり気なくも細やかなニュアンスがこもった美音でよく歌っていること、全てにおいて過不足なく、芸の器の大きさというのか余裕が感じられること、そして、聴いていてすごく心地良い私の愛聴盤でもあるということでしょうか。滋味豊かな名盤と評されることも多いので、そう考えると実は、この曲には名盤が多いのかもしれません(注4)。笑
しかし、色々聴いていると確かに演奏するには難しい面があるようで、「田園」だけに(?)、構え過ぎたり、力み過ぎたりすると空回りするし、いじり過ぎるとクサくなる、かと言って、情感がこもっていないとスカスカになる。。。ブラームスなのに(?)、まるでモーツァルト的な難しさ、とでも言うのでしょうか?指揮者も当然大切ですが、こういう曲は豊かで繊細な音を奏でられる超上手いオケでないとツラい。。。
ということで先ほど挙げた老大家の芸以外から、今回私がおススメする名盤は、カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィル。
モーツァルトが上手い指揮者と上手いオケと言えば、このコンビ。DVDですが(海賊盤CDは音が悪過ぎておススメ出来ません)、クライバーさんのまるでタクトの先から音楽がこぼれるような素敵な指揮も観れるので、逆に映像が残されていて良かったと思うくらいです。
しかも、この前に演奏したモーツァルトのリンツもまた名演で、お気に入りのDVDです。
このブラ2がリンツと共に、Youtubeで全曲アップされていましたので、どうぞ!(31分辺りからブラ2です。)
そして、私にとって別格の1枚が、ジャン・フルネさんが指揮した東京都交響楽団の現役引退演奏会のライブDVD。
この演奏会は実際に聴きに行っており、その記事をご覧いただければと思いますが、正直なところ、実際に体験せずにこれだけを視聴した場合、どう感じられる演奏なのか。。。どうやっても客観的判断が出来ませんので、ご容赦を。
ただ、フルネさんという不世出の名指揮者が、人生最後の曲として選んだのがこのブラ2であったこと。。。これがこの曲の語り尽くせない魅力を表していると思います。
(注1)カール・ベーム指揮ウィーン・フィル(諸井さんのおススメ盤ではありませんが、1977年東京ライブ盤):聴き流すと「基本的に少し重い感じだが、往年のウィーン・フィルの美しい響きを最大限に生かした極めてオーソドックスな演奏」という風に聴こえますが、そこはライブ。多少の傷があるものの、味つけが濃い演奏でその揺れ動きがさり気なくも効果的・感動的で、こんな実演が聴けたら本当に幸せな気分になると思います。
【2020.1.13追記】Youtubeで「Brahms,Sym,2,Böhm」と検索すると何とこんな名演が?!リンクが切れたらごめんなさい、ということで、無責任にご紹介しておきます。
☆1975年のベルリンフィルとのライブ。
☆1976年のウィーン・フィルとのライブ。
(注2)ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団盤:聴き流すとやはり「オーソドックスな演奏」には違いないのですが、じっくり聴くとその中で信じられないぐらいテンポ設定・音量設定を動かしている巨匠ピエール・モントゥー晩年の神業。その歌わせ方が実に巧みでなめらかなため、あっと言う間に美しさ、楽しさ、豊かさに飲み込まれてしまい、それこそ気を抜くとそこかしこで涙が出そうになる素晴しい演奏。
(注3)サー・ジョン・バルビローリ指揮ウィーン・フィル盤:聴き流してもじっくり聴いても「往年のウィーン・フィルの美しい『歌』を最大限に生かした極めてオーソドックスな演奏」で、この曲を満喫出来る私の大好きな演奏。そのテンポ設定・音量設定・歌わせ方等、どれを取ってもこれが本来のブラームスの意図どおりだったのではないかと思うのですが、諸井さんがお好きでなかった理由が「甘く歌わせ過ぎる」でしたので、人それぞれ考え方はあるようですが。
(注4)その他のおススメ盤を以下にご紹介しておきます。
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル(米Meteor)盤:文中にも書きました「モーツァルト的な難しさ」のギリギリまで表情をつけた演奏で、この演奏を聴くと如何に上の3つの演奏がオーソドックスだったかよくわかります。ただ、好みにもよると思いますが、その表情づけがブラームスの狙っていた効果を強調しているだけだと思えた人にとっては、すっと心の中まで入ってくる演奏で感動出来ると思います。
2016.10.6 23:33、2018.8.15(注1-4)を追記
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