私が2018年以来通い、お手伝いしている福岡・直方谷尾美術館室内楽定期演奏会(注)。
その年4回の演奏会の柱となる出演者が、日本を代表する弦楽四重奏団クァルテット・エクセルシオ。そして、私がこの演奏会にこんなに関わることになったのは、間違いなく彼らがいたから。彼らに惚れたから※。
※初めてノックアウトされた時の記事はこちら。
今年は、そんな彼らの結成30周年。
彼らに対する愛情を込めて、直方におけるエクの歴史等を綴りましたので、まずはご覧くださいませ。
石の上にも30年。
「一つのことを30年追い求め続けた人はとてつもないレベルに到達する」と唸らされることが、最近とても多いのですが、エクもまさにその一つ。
この6/1に「結成30周年を共に喜ぶ一夜に」と銘打って行われた第56回室内楽定期演奏会も本当に素晴らしかったです。(プログラムや曲目解説はこちらをご確認願います。)
最初はモーツァルト。弦楽四重奏曲第17番《狩り》でしたが、第一音が鳴った瞬間からもう圧倒的。4人で織り成す掛け合いの美しさ、1stヴァイオリンの西野さんを始め、各人の歌心溢れる演奏。味わい深い間を含め、これまでより訴えかける力が強くなったように感じたモーツァルト。
モーツァルトの作品集を録音されたとのことでしたが、そこでまた新たな開眼があったのでしょうか?いずれにせよ、新作アルバムの発売が楽しみです。
次のメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲 第1番でまた大きく感動。その芳醇な響きの美しさ、ウイットに富み、全く飽きさせない曲の進行に本当に魅了されてしまいました。
モーツァルト以来の天才と謳われるメンデルスゾーン。でも、これまでどうしても同じレベルだと思えなかったのですが、今回初めて思いました。メンデルスゾーンさん、ごめんなさい。あなたはやはり天才でした。
しかし、その曲の良さを伝えられるか否か、その天才ぶりを遺憾なく聴かせられるか否かは、演奏家の力量によることを思えば、エクがやはり凄いということ。打ち上げの帰り際、「次の録音はメンデルスゾーンを!」とエクの皆さんにリクエストしてしまいました。
最後は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第14番。
私が中学生の時にハマって以来、かけがいのない一曲。一夜漬けの際にはいつも聴いていた思い出の曲でもあるのですが、実はエクの14番を聴くのは、19/6以来の2回目。※
※ちなみに、エクの14番は、ある事情から直方では4回目!
あの時は、2ndヴァイオリンが山田さんから北見さんに変わった直後の演奏会で、どこか悲壮感漂う面持ちの北見さんがしっかりと大役を果たされた回でしたが、あれから5年。エクがどんな風に変わったのか、とても楽しみにしていました。
1stヴァイオリンの美しいソロから始まるこの曲。漲る緊張感、張り詰めた音楽に最初から鳥肌。美しくも厳しい音と柔らかい音が入り交じる4人の掛け合いの妙、色々なドラマがありながらも最後に向けて盛り上がる音楽。客席のどこかから聞こえてきた涙の音もさもありなんの壮絶なまでの音楽。
打ち上げの席でチェロの大友さんがおっしゃっておられましたが、7楽章40分強の間、全く休みなく目まぐるしく変わる曲想を歌い続けることは大変苦しく、それも含めて特別な曲とのこと。今回も心から堪能させていただきました。
また、私にとっては、北見さんからこの曲における2ndヴァイオリンの重要性を存分に教えてもらえたことも今回の収穫。
打ち上げでその御礼をしたところ、北見さん曰く「もっと2ndが引っ張れる」とのことでしたので、エクの14番にはまだ伸びしろがあるらしいです(笑)が、芸術の世界は奥が深いと改めて感心させられました。
尚、今回、MC担当として、1stステージ、2ndステージの前に、曲紹介や色々なお話をされたのは、1stヴァイオリンの西野さん。
とてもわかりやすい説明で、それぞれの曲理解を深められただけでなく、「音を一音も出さずにこんなに拍手をいただいて、申し訳ございません」と笑いを取り、客席との心の距離を一気に縮められたのも流石でした。
演奏会後のCDの売れ行きを見れば、どのくらい凄い演奏が繰り広げられたのかがよくわかりますが、こんなに凄いエクをこんなに近くで聴ける幸せ。。。ホールで聴いてもいいものの、これを味わってしまうと、やっぱり手放せない。とても素晴らしい一夜でした。
エクの今後ますますのご活躍を心から祈念いたしております。
(注)年初にアップした「私のシベリウス」でも記載したとおり、応援HPの運営や会報誌の編集長を始めとした運営のお手伝いをしているこの直方谷尾美術館室内楽定期演奏会。中津川に異動後もどうしても離れられず、その状態を継続してしまったその魅力。。。それは演奏会の質の高さ。
ただそれは、単に演奏そのもののレベルが高いだけではなく(とは言え、エクを始めとした選りすぐりの演奏者が凝りに凝ったプログラムを披露するので、これだけでも凄いことですが)、直方谷尾美術館の豊かな響き、時期毎に変わる展示品に囲まれる中、100人強の観客と演奏家との距離が極めて近く、演奏者の息遣いや緊張感がダイレクトに伝わるというホールでは味わえない醍醐味、素晴らしい演奏の後に生まれる一瞬の間、それがホッと緩んだ後、沸き起こる温かい拍手、更にはそんなお客さん達が演奏会場の設営を自主的にお手伝いされている姿やボランティアの方々が運営に携わられている姿、パンフレットも全て含めた総合的なもの。
一度お越しになられれば、すぐにわかることですが、なかなか文章で伝えるのは難しい。。。ちなみに、下記が私が運営している応援HPです。少しはその雰囲気を感じていただければ、幸いです。
尚、下記はまだこの演奏会のお手伝いをしていなかった頃、その素晴らしさについて書いた「第33回定期演奏会の記事」から転用・一部改訂したものですが、ご参考まで。
①プログラムがスゴい!:こんな意欲的なプログラムの演奏会が昔、炭鉱で栄えたこの福岡の山間の町 北九州・直方で行われていること自体、驚き以外の何物でもありません。
②その結果、知らなかった名曲に出会える!:不勉強を恥じるだけですが、私はこれまで室内楽をちゃんと聴いてこなかったので、ようやく室内楽が名曲の宝庫であると気がつきました。新しい発見=この演奏会に来ることで、これからまた名曲に巡り会えるととてもありがたく思っています。
③予習しても馴染めない曲が理解出来る!:知らない曲は予習するに越したことはありませんが、予習しても理解出来ない時は諦めて、演奏会に身を委ねた方がいいみたいです。現代曲になればなる程、この傾向が強いように思いますが、やはり100回CDやYoutubeを聴くより、一度、生のいい演奏を聴く方が勝ります。
余談、かつ、またお恥ずかしい話で恐縮ですが、そんな時は演奏会後の復習がとても大切なようで、今回いくら予習しても耳に残らなかったドビュッシーとシュニトケ。これがその空気感・緊張感・雰囲気等を一度体験しただけで、再度聴き直したらちゃんと定着しました。
④会場がいい!:会場で使用しているのは、直方谷尾美術館の高い天井の大展示室ですが、響きのいいコンサート・ホールほどではないとは言え、残響も適度。何よりともかく演奏者が近く、「室内楽の醍醐味」が味わえること、間違いなし。これは、ホールでは絶対に味わえない幸せです。しかも、休憩時間中には展示中の美術品も見学出来、一石二鳥。
唯一の難点はトイレが少ないことですが、元々民家を改造した美術館なので仕方ありません。諦めて並びましょう。
⑤演奏者のプログラムに取り組む姿勢が違う!:「演奏者のやりたい曲をやってください」が、演奏者に依頼し、プログラムを決める際の渡辺さんの基本的な方針だとか。演奏者側もそんな依頼を受ける機会は通常ないので、最初の頃は「直方?どこ、それ?騙されているんじゃない?気をつけた方がいいよ?」と用心されていたとか。
最終的には、そこに主催者の渡辺さんのアイデア等も加わり、対話の中で決定されるそうですが、通常演奏する機会を得ないマイナーな曲やチャレンジしたかった曲を演奏会で取り上げられるこんなありがたい機会は滅多にない訳で、演奏者側の気合いも違ってくるというもの。
ちなみに、この定期演奏会の常設シリーズを持っているクァルテット・エクセルシオに対して一番最初にした依頼は「ベートーヴェンの後期四重奏曲をお願い出来ませんか?」だったそうですが、こんな依頼は集客が見込めないため、そうそうあり得ないそうです。
⑥曲目解説への注力ぶり!:これが後述するお客さんのレベルの高さにつながっていることは間違いないと思います。
A. パンプレットの曲目解説への気合の入り方がハンパない!:日経新聞の「アプローチ九州」という九州音楽展望の執筆者でもある渡辺さんが全身全霊の力を込めてご執筆されておられるこの解説。クラシックをほとんど聴かないお客さんに興味を持ってもらうために、日常の話も織り交ぜながら書かれた解説ですので、とてもわかりやすく面白い。
尚、その演奏曲目解説等は、上記で紹介した「かんまーむじーくのおがた応援サイト」にアップいたしましたので、併せてご紹介まで。
B.演奏者による演奏前の曲目解説が楽しい!:演奏家が演奏する直前にその曲の解説することは時にありますが、この定期演奏会はサロン的で気さくでわかりやすい。しかも、お客さんとしても演奏者の声を直接聞くことで演奏者に親近感が湧くというメリット付き。
演奏者と客席の距離が近く、アットホームな会場の雰囲気の効用の一つではないかと思います。
⑦お客さんのレベルがともかく高い!:先日行われた竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタルに来られていた別府しいきアルゲリッチハウスのお客さんのレベルの高さにも感心しましたが、あちらは恐らくほぼ全員がクラシック愛好家。
でも、この定期演奏会のお客さんに普段クラシックを聴かれる方がどれだけいらっしゃるのか?だからこそ、感動的な演奏会をちゃんと共有出来たことに前回は驚きましたが、今回は更に驚愕。
最後のシュニトケはチェロ・リサイタルではよく演奏される曲だそうですが、クラシック愛好家でも室内楽に興味がなければ知らない曲。そんなレアな現代曲を演奏者と共に緊張感を持って聴き切り、感動を共有された上、至福の余韻までちゃんと味わい尽くすお客さん。
このレベルの高さは、室内定期演奏会を33回積み上げてくる中で少しずつ培われてきたものだと思いますが、その空間を共有させていただき、更には後日、そのアンケートに書かれた感想を読ませていただき、心から感動させられました。
そして今回、最後の最後に想像もしていなかった感激が。。。それは、多くのお客さんが椅子等の片づけをされておられたこと!
この定期演奏会がボランティアで成り立っていることをご理解されてのこととは言え、何のお願いのアナウンスもないにも関わらず、こんなに多くの方々が自主的にお手伝いされるなんて、これはどうやっても通常見ることが出来ない光景。
今回も写真を撮ってアップしたかったのですが、身体は椅子のバケツ・リレーの一員として機能していましたので、残念ながら断念。次回は途中で写真を撮る機会を作りたいと思いますが、さて、うまくいきますかどうか。
いずれにしても、このお客さんこそがこの定期演奏会の真の宝物。
ということで今回、全てをひっくるめて、素晴らしい演奏会だと感じ入った次第です。
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