福岡「第13回 楽興の時」聴講記19/03【+クララ・シューマン生誕200年@アクロス福岡19/06】

毎年、福岡で開催されている「楽興の時」というイベントをご存知でしょうか?

初めて聴講してきましたが、今年になってクラシックの室内楽にずぶずぶハマっている私にとって極めつけと言っていい、素晴らしい体験となりました。(注1)

このイベントは、福岡こども短期大学教授でピアニストの中川淳一さんが主宰されておられるもので、今年で13回目。

MAROさんこと、NHK交響楽団のコンサートマスターの篠崎史紀(フミノリ)さんが、アマチュア・ピアニストが持ち寄った室内楽曲を一緒に演奏するというスタイルでレッスンを25分x2回行い(+ピアノ伴奏レッスン1回)、最終日にMAROさんと成果披露演奏を行うというもの。

今回私が行ったのはレッスン2回目と最終日でしたが、将来を夢見る小学生から年齢不詳のお姐様まで、色んな受講生がいらっしゃって驚いたのは単なる序の口。そのレッスン、成果披露演奏会は、想像を遥かに上回った素晴らしいものでした。

一番驚いたことは、MAROさんが求める音楽のレベルの高さに一切妥協されなかったこと。。。受講者は単なるアマチュアの方々なので、普通に考えれば、それぞれの技量に合わせてその高さは変えざるを得ないと思うのですが、受講者によって指摘するポイントが違うだけで、最終的に求めておられる高さは全く変えられない!

これは本当にスゴいこと。どんな技量の方に対しても、自分の求めるレベルを示し、その高さに向け「少しでもいいから近づこう!」と苛立つこともなく、手を変え品を変え、ユーモアを交えつつ優しくアドバイスされるMAROさん。

もうこれだけで、尊敬の一言。

更に、このレッスンにはピアノのテクニカル・アドバイザーとして純真短期大学教授の田中美江さんがご同席されておられるのですが、この方がまた信じられない神業を連発!

MAROさんが求めておられる音をこの受講ならどうやったら出せるかを瞬時にご判断され、受講者にアドバイス。そしてそう弾くと、本当にその音が出てくるのですから、これは感動もの。

ピアノという楽器が色んな音を出せることは知っているつもりでしたが、こんな形でまざまざと魅せつけられ、クラシックのピアニストのスゴさ、奥深さをまた少し垣間見れたような気になりました。

今回聴講してみてわかったことは、このイベントが、ピアノだけに限らず、室内楽だけにも限らず、クラシックを演奏する誰にとっても、一流演奏家の貴重な教えを授かれる場であること。(注2)

しかも、聴講は無料!

はっきり言って、こんな素晴らしいレッスンを受講・聴講しないなんて、もったいないです。

プロはともかく、アマチュア演奏家の方々は、是非一度聴講されることをおススメします。

また、私のように演奏しないクラシック愛好家の方にも、聴講する楽しみは満載。

ヴァイオリンとピアノの対話、音の受け渡し方、そのニュアンスの込め方等々、少しのアドバイスで明らかに変わる音楽の表情。そして、その細やかなニュアンスの積み重ねでどんどん演奏の質が上がっていくのが、リアルにわかる喜び。

中でも、いつもコンサートを聴きに行ってよくわからないままに感動するようなポイントが、言葉として、演奏技術として、確認出来た出来た喜びはちょっと言葉には言い表せません。

更には、最終日の成果披露演奏会(千円)がまた楽しい。

受講生達がレッスンどおりに出来たり出来なかったり、レッスンの時とはちょっと違う間合いで演奏されるMAROさんに反応出来たり出来なかったり。。。初回のレッスンから聴講出来れば一番いいですが、2回目を聴講しておけば、楽しさ倍増。

具体的には、小学生の女の子が緊張しながらも張り切って演奏し、MAROさんがそれを温かく見守りながらも魅せたチャーミングな「チャルダッシュ」、MAROさんが演奏後、満足そうな笑顔で応えられた素敵な「愛のあいさつ」、出だしのピアノの響きの素晴らしさに本気で驚かされた「街の歌」等々。

しかも私個人にとっては、今年聴いて感動した曲をまたここで聴くことが出来たのも、不思議な縁。

特に、竹澤恭子&江口玲(アキラ)という超強力コンビで聴いたブラームスのヴァイオリン・ソナタ「雨の歌」の聴き比べは最高で、竹澤さんとは全く違うMAROさんの柔らかく温かいヴァイオリンに酔い、それぞれの良さや違いに驚嘆・感心し、この曲におけるピアノの役割の大きさを改めて実感する等、もう大満足。。。

いずれにしても、こんな色んな楽しみ方が出来るイベントは他にはありません。

講評でMAROさんがおっしゃった「クラシックは再生・伝承文化であり、次世代へうまくバトンタッチしていきたい」というお言葉に重みが感じられたのは、この活動を10年以上も継続されておられる裏打ちがあってこそ。

主催者の中川さん、講師のMAROさん、田中さんの今後ますますのご活躍を祈念したいと思います。

そして、受講生の皆さん。。。年齢層だけでなく、音楽との関わり方や目的もバラバラだと思うのですが、音楽に真剣に取り組んでおられる姿を目の当たりにし、いい刺激をいただきました。。。どうもありがとうございました。

あの小学生の女の子、来年はどんな素敵な演奏を聴かせてくれるんだろう?という楽しみもあり(笑)、次回も聴講しようと思った次第です。


(注1)今年聴いた素晴らしい室内楽演奏会。。。この後も幸運が続けばいいな、と思いつつ。

・竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタル@大分 別府・しいきアルゲリッチ・ハウス 19/02:紹介

・直方谷尾美術館室内楽定期演奏会

  第33回 長谷川彰子(Vc)&入江一雄(p)リサイタル 19/02:紹介

  第34回 田中香織クラリネット・リサイタル 19/03:紹介

(注2)音の捉え方・作り方、楽譜の読み方等々、レッスン内容で、知らなかったこと、感銘を受けたこと等を個人的メモ代わりに羅列させていだだきます。。。演奏もしないのに、何に使うのかって?演奏会観賞に結構役に立つと思っています。笑

・音色・フレーズを重視 ・同じメロディーに戻ってきた時に音色は変えない ・その音、同じ響きに出来ない? ・フワッと蛍の光のように ・最後の一音で帳尻合わせせず、4つの音を均等に使ってリタルダンド ・レントの意味は遅く、ではなく、たっぷり、ゆったり幅広く ・カウントするのではなく、気持ち ・休符にはハッとした雰囲気が欲しい ・この3小節はグラデーションのように変わっていく部分 ・その3小節で色を作って欲しい ・そこは心臓の鼓動のように ・何か自分に来るんじゃないかというささやかな期待を感じて ・シンコペーションは気持ちの動き ・フェルマータはバス停という意味 ・フェルマータの後ろにア・テンポがある時は、減速した後、すぐにテンポを戻すが、ない時は緩やかにテンポを戻す ・フレージングはセンテンス。どこが句読点かをわからせる ・フレーズの受け渡しは人に物を渡す時のようにそっと ・左手を進行させて、右手は響きを乗せる感じ ・土台がしっかりしてないとダメ ・ヤタタパパン!と決める所はしっかり決める、ダラけるとダメ ・この曲は定期的じゃなく、適当に弾いた方がいい ・左手は長めでいいけど、チャルダッシュを受け持つ右手は短め ・トレモロは和音を弾いた後にバラバラ~ ・譜面台に映るヴァイオリン奏者を見る手もある ・音は弱くするのではなく、柔らかくする ・ぬるい音がするのは、打鍵のスピードが遅いから ・おとぎ話・劇の始まりはハッキリと ・縦の線を合わせるのではなく、リズムを合わせる ・キャラクターによって、種類の違う引き出し(音の性質、打鍵のスピード) ・そこはペダルの踏み替えてもいい ・指を意図的に外すのもあり

<追記>曲中の1音でもニュアンスの違う音があると演奏のレベルが全然違ってくることがよくわかりましたが、それを実際にレッスンするのは極めて難しいこともよくわかりました。。。例えば、エルガー「愛のあいさつ」の受講生は決してレベルの低い方ではありませんでしたが、3分弱しか演奏時間のないこの曲に対して、一つ一つ手直ししていくとレッスン時間ちょうどの25分。指摘されてもすぐにその音が出せる訳もなく、それぐらいニュアンスの手直しは大変。

結果的にこの方は、最後の演奏会で見事なDuoぶりをご披露されたのですが、一度のレッスンでちゃんと身体に叩き込まれたことにも感心してしまいました。


【追記】クララ・シューマン生誕200年@アクロス福岡19/06

この「楽興の時」のメンバーによる演奏会があるとのことで行ってきましたが、実に素晴らしい時間を過ごさせていただきました。

普段聴くことの出来ないクララ・シューマンが作曲した3つのロマンスという曲やシューマンのピアノ四重奏曲という前半も良かったですが、この日の白眉は何と言っても後半。

ブラームスのピアノ四重奏第1番の素晴らしい演奏、アンコールに応えて始まった朗読「クララとブラームスの最後の書簡」、そして、ブラームスの間奏曲のピアノ四重奏編曲版の感動的な演奏。。。篠崎さんの得も言われぬ柔らかい叙情、優しい情熱に、「楽興の時」で聴いた「雨の音」の感動が蘇りましたが、更に気合の入った演奏ぶりとそれに見事に応えきったメンバーの熱演が加わり、とても気持ち良く酔わせていただきました。

ちなみに「楽興の時」をご主催しておられる中川さんですが、この素敵な演奏だけに留まらず、アンコールのピアノ四重奏版の編曲から朗読の内容までご監修なさったとか。どうもお疲れ様でした。

メンバー:篠崎史紀(Vn)田中美江(p)中川淳一(p)猿渡友美恵(Vla)原田哲男(Vc)朗読 小野弥生


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汝が欲するがままをなせ

九州ジャズ・スポット巡りを中心に興味の赴くままジャズ・クラシック等について不定期に掲載。 タイトルはM・エンデ「はてしない物語」の含蓄に富んだ言葉で、サイト主の座右の銘。 ♪新しい秩序、様式が生まれる時代の幕開けです。この混沌を積極的に楽しんでいきましょう。危ぶむなかれ、行けばわかるさ、です。笑