まず、舘野さんの凄さは生き様そのもの。
また、右手が不自由になったピアニストが何の不自由も感じさせることもなく、生命力豊かな音楽を紡ぎ出されるお姿を目の当たりにすること、その空気を共有すること(注1)。。。別にご本人が意図しておられる訳ではないと思いますが、「前向きに生きる」ことへの説得力の強さは比類なく、私も勝手に「もっと頑張らなきゃ」と思わされてしまいました。笑
そして、上原さんの凄さはパフォーマーとしての訴求力の強さ。
ピアノと真正面から対峙し、自分に没入し、格闘し、突き進み、迷い、トライし、また彷徨い悩む姿。。。それは小さな体を大きく揺らし、傾け、唸り、わめき、足踏みし、立ち上がる等の動作に現われますが、その都度変わる会場の空気に敏感に反応し、また変わっていく。それが上原さんが音楽を紡ぎ出すまでのプロセス。
そして、その結果として表現される「今まさに生み出された」と思える音楽。
これら全てが彼女のパフォーマンスであり、その全身全霊をかけて生み出された何かに巻き込まれ、魅き込まれ、熱狂する聴衆。分け与えてもらえる豊かな生命力。私はいっぱいの元気をいただきました。(注2)
こう書いてみてお二人に共通していたのは、自分を飾ることなくありのままに曝け出しておられること。
結局、人間は中身で勝負。少しでも魅力的になれるよう、もっと自分を磨きなさい!ということでしょうか?
この年の締め括りの時期にいい経験をさせていただきました。
(注1)舘野泉@筑紫野文化会館
ご存知の方も多いとは思いますが、世界でご活躍されておられた2002年にリサイタル中に脳溢血で倒れられ、その後遺症で右半身に麻痺が残る状態に。
普通ならそこでピアニストとしてのキャリアに終止符を打ち、その悲運を嘆くのだと思うのですが、この方は全く違いました。
「演奏することが自分の使命で、そのために右手が使えるか否かは全く関係がなく、不自由もない」といったことをおっしゃる舘野さんのために新たに書かれた左手のためのピアノ曲は既に100曲を超えたとか。。。力強く生きる人には何かを引き寄せる力があるという証でしょう。
この日もピアノ・ソロ2曲(光永浩一郎作曲 左手のピアノ曲「サムライ」、池辺晋一郎作曲 ピアノソロ「1枚の紙と5本のペン」)、アンサンブル福岡をバックにしたピアノ協奏曲2曲(光永浩一郎作曲 ピアノ協奏曲「泉のコンセール」、パブロ・エスカンデ作曲 ピアノ協奏曲「アンティポダス」)という御年83歳とは思えないハードなプログラム。
現代音楽の難解な曲が多かったのですが、多用された美しい響きも特徴的でしたが、こうして目の前で弾かれていなければ、とても左手一本とは気づかないと思えたのもスゴいこと。
また個人的に一番感銘を受けたのは、アンコールのスクリャービン。とても素敵な曲、響きで、その美しくも安らかな時間の流れに魅了されました。
最後は赤とんぼで締めくくり、終了。帰り際、普段はクラシックを聴かれないようなお客さん達が満足そうな顔をしていたのが印象的でもありました。
(注2)上原ひろみ@アクロス福岡
今回の私の体験を客観的に見ると上に書いたとおりなのですが、でも、普通のプレイヤーとの違いは何だったんだろう?という謎が強烈に残されました。
違いがあるとすれば、あの広い空間のステージ上に発生していた凄まじいばかりの求心力。。。そしてそれは、その高い音楽性・技術力に加え、うまく言葉に出来ませんが、あの会場中に伝わったと思われる狂おしいばかりの集中力が生んだものなのでしょうか?
元々、音楽は瞬間芸術であり、その場限りで消え去るもの。アルバムに録音した同じ曲もその瞬間を切り取っただけの記録でしかありませんし、中でも同じ演奏を忌み嫌うジャズ、更にはフリーと呼ばれる分野に位置する上原さん。しかも今回はピアノ・ソロだっただけに余計にそうだったのかもしれませんが。。。ともかく不思議で貴重な謎をいただいたコンサートでもありました。
その他、このコンサートで印象に残ったことを数点。
毎回された深々ときれいなおじぎ。演奏を始められる直前、じっと精神統一を図っておられるかのように見える不動の数秒間。
今回一度だけされたMCの中から、ラーメン好きの上原さんが大都市だけでなく、世界中で豚骨ラーメンにお世話になっていること、30年も前にNYに進出した博多めんちゃんこ亭の勇気ある一歩に感謝していること、豚骨が受け入れられている理由=魚介類の匂いは苦手な彼らにも豚骨は美味であること、そして最後におっしゃったとても素敵なお言葉「この場でしか生まれない音楽を皆さんと一緒に探していきたい」。
最後は、上原ひろみというスターでもアクロス福岡の客席が満員にならなかったという事実(3階席、2階席ステージ側2ブロックがクローズされていました)。。。これが九州におけるジャズ需要の実態なのでしょうが、これだけがとても残念でした。
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