今回ご紹介する曲は、スメタナ「わが祖国」。「作曲家」ではなく、「作品」が好きなシリーズ第3弾です。
この曲はそれなりに思い入れがないと演奏出来ないせいか、どのCDを聴いてもレベルの高い演奏が多いのですが、今回は中でも飛び切りのこのDVD。
1991年11月に東京・サントリーホールで行われたラファエル・クーベリックさんが指揮したチェコ・フィルハーモニー管弦楽団のライヴをご紹介します。
まずこの曲はチェコ国民にとって特別な作品だそうで、プラハの春音楽祭でもチェコ・フィルがそのオープニング曲として毎年演奏されています。
一方、この曲の演奏の定番指揮者の一人 チェコ出身の大指揮者クーベリックさん。。。他にも名演の多いクーベリックさんですが、それでもこの曲はやはり格別だったように思います。
しかし、祖国の共産化に反対・亡命したクーベリックさんにとって、チェコ・フィルとの再演は夢のまた夢、だったはずが、1989年にチェコがビロード革命で民主化。
クーベリックさんは数年前に病気で引退していたにも関わらず、大統領の強い要請に応える形で、1990年のプラハの春音楽祭に40数年ぶりに復帰。チェコ・フィルとこの曲を演奏し、大変な話題になりました。
ただ残念ながら、その演奏自体は音楽ファンの熱い期待に応えられず、単なる「お祭り」として良かったね!ぐらいで歴史の一頁として終わろうとしていました。
が、その翌年。。。バブル絶頂期の日本は凄かった!?
何と、クーベリック指揮チェコ・フィル「わが祖国」の日本公演が実現!!
まだ若く生意気だった私は、この高額のチケットに手も足も出なかった悔しさもあり、「日本で、この演奏会を行うことに一体、何の意味があるのか?」「もうクーベリックさんは引退しているんだから、そっとしておいてやれよ」と呟いた後、すぐにその事件を忘れてしまいました。苦笑
が!後年発売されたライブCD。何気なく「あぁ、あの時の」ぐらいで買ったこの演奏が、凄かった!!
この曲は6曲で構成されているのですが、前半3曲・後半3曲に分けることが出来ます。
前半は、きれいで静かなハープ・ソロで始まり、音楽の教科書にも載っていた2曲目「モルダウ」で繊細できれいな盛り上がりを見せた後、一転して力強い3曲目が始まり、途中から最後に向けて一気に盛り上がり、最初のクライマックスを迎えて終わります。
そして休憩を挟んだの後の後半。4曲目は3曲目最後のテンションを維持したまま始まり、引いては盛り上がり、盛り上がっては引き、きれいなメロディーを挟んでまた盛り上がり。。。徐々にテンションを上げながらその繰返しを何度も何度も経た後にようやく到達する最終6曲目のフィナーレ。体調が悪いと(?)、ちょっとクドい感じがする時もありますが(笑)、やはり感動的な名曲だと思います。
でも、今回の演奏の何が凄いと言って、ffの時だけでなくppの時にもずっと続く緊迫感の強さがもたらすのでしょうか?他の誰の演奏にも増して強いその音楽の流れ。。。何に例えるのがいいのでしょうか?最初に巻き込まれたが最後、一気に遠い彼方まで運ばれてしまって、気がついたら、あれ?終わってた、という感じです。
そしてその後、発売されたこの演奏会のDVD。発売と同時に購入しましたが、やはり目から入ってくる情報は多いのですね。音だけでも十二分に感動しているのに、そこに加わる映像からの情報。クーベリックさんの発する強烈な気迫、チェコ・フィルが負けじと発する気合。「血沸き肉踊る」演奏というのが正しい表現かどうかわかりませんが、一期一会の演奏とはまさにこのこと。わかっているのに、視聴する度、そのあまりの演奏に呆然としてしまいます。
結局、クーベリックさんにとって生涯最後となったこの演奏会。
前年のプラハの春音楽祭では練習のし過ぎでみんなバテてしまい、本番まで持たなかったとか、今回の前半が終わった後の休憩時にクーベリックさんはダウンして酸素吸入をしていたとか、色々な伝説が残っているようですが。。。
大袈裟ではなく、この演奏会を企画・実現してくれた方々、またこうしてDVDに残してくれた全ての関係者の方々に、深く敬意を表します。
さて、この曲のYoutubeを探したのですが、同じクーベリックさんの指揮(バイエルン放送交響楽団)で、モルダウの途中から始まり、突如として3曲目の最後にワープして盛り上がって終わる、というスグレもの(?)を見つけましたので、どうぞご覧下さいませ。
【追記】2019年10月、セミヨン・ビシュコフさんの指揮でチェコ・フィルの「わが祖国」を実体験。自家薬籠中と言うのか何と言うのか、ともかくその素晴らしくも凄かったこと!
もし、「チェコ・フィルの『わが祖国』」を聴く機会があれば、万難を排して是非ご体験ください。それだけの価値はあると思いますので。私の体験記はこちら。
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