毎度お馴染みとなりました延原武春さん指揮フィルハーモニア福岡の第35回定期演奏会に行ってきました。
今回はシューベルトの交響曲第8(7)番 未完成と第9(8)番 ザ・グレートというシューベルトの二大交響曲で、この楽団としても初の試みであったようです。
通い始めてもう6回目になりましたが、いつもどんな趣向が凝らされているのか、楽しみなこのコンビの定期演奏会。。。そして今回の白眉は、ザ・グレートの他では聴けない、聴いたことのない唯一無二の超怪演!
延原武春という茶目っ気たっぷりの素晴らしい解釈をする指揮者とその世界を具現化するために全力で立ち向かう機動力に優れたフィルハーモニア福岡という小編成オケだからこそ成し得た快挙。
一生記憶に残るであろう本当に素晴らしい演奏でした。
実は「天国的に長い」と評されるこの曲を小編成オケで演奏するのは、物理的なダイナミクスが足りないことによる表現力不足が予測され、とても期待薄でした。ところが、恒例の延原さんの事前の曲説明(以降、「前説」と略)が何とも挑発的で、曰く、
①シューベルトは尊敬するベートーベンに倣ってピアノ・ソナタも多く書いているがともかく長く、ドイツ人はそれを聴いて心が休まるらしく人気があるが、日本人にはわからない。
②この曲の名前「グレート」は偉大という意味ではなく、シューベルトの2曲あるハ長調の交響曲の内、「長い方」という意味。
③その後のブルックナー等の交響曲の長大化につながるという位置づけの曲かもしれないが、同じテーマを色んな手法で長く延ばしているので、人によっては退屈かもしれない。
④もっと聴いていたいという意味では優雅な退屈という演奏もあると思う。
⑤シューベルトは歌曲の優れた人で私も好きで、中でも長く暗い物語を歌う「冬の旅」が大好きだが、同じ主題が折々で違う表現になる。
⑥今回、こんな演奏もあるのかと思ってもらえればと思う。
⑦(オケに向かって)みんなも退屈か?もしそうなら最悪やけど。笑
とのことでしたが、これを聞いて、期待値がマックスに一変。さぁ、何が起きる?!
そして始まった第1楽章ですが、ともかく速い!!!
これまで聴いたことのない軽やかでワクワクするような出だしに早くも興奮状態、期待以上。もし延原さんの前説がなく、よくある牧歌的、かつ、重量感のある堂々たる出だしを思い描いていたままだったら、椅子の上でズッこけていたこと必至。
メリハリの利いた心躍る演奏にして、シューベルトの愛らしさも強調。少しせわしなく感じた人もいるかもしれませんが、何はともあれ、実に楽しい!躍動感に溢れ、生き生きとした第1楽章。。。こんな解釈、あり?!
このいくら速度が早くても表情に変化がないと退屈しかねない第1楽章もあっと言う間に最後の盛り上がりに差し掛かり、見事に堂々のフィニッシュ!オケの鮮やかな決めポーズに、思わずブラボー!と叫びそうになったほどの会心の演奏。
この後の第2~4楽章も同様に手を変え、品を変え、速めのテンポ設定の中でも、歌うべきところはきっちり歌い、聴かせるべきところは充実した響きで応え、盛り上がるべきところでは気合の入った響きを鳴らす等、表情の切り替えで魅せたり、1stと2ndのヴァイオリン対抗形の掛け合いの妙味を交えたりしながら長いこの曲に変化をつけ続けられましたが、中でも特に感心したのが「比較」の妙技。
それまでのテンポに比較すると少し遅くしただけなのにゆったり歌っているように聴こえたり、全体のボリュームをそれまでに比較してほんの少し落としておいただけなのに、木管や金管のソロが浮かび上がって聴こえたり、そのボリュームを元に戻すとフォルテに聴こえたり、フォルティッシモがとても大きなフォルティッシモに聴こえたり。。。
この素晴らしい交響曲の新たな解釈を披露し続け、最後まで本当に飽きさせない演奏を成し遂げたこのコンビには脱帽!
前説で「退屈か?」と振られたオケにとって、あれはキツい冗談だったんだ、と終演後改めて気づきましたが、それにしても全曲通して速かった。。。通常は1時間近くかかるこの曲ですが、恐らく50分を切っていたのではないでしょうか?ちゃんと測っておけば良かった。笑
そしてもちろん、終演後はブラボーの嵐!
のはずが、そうでなかったことが、唯一、今回の演奏会で残念だったこと。。。以前のメンデルスゾーンのスコットランドも同じでした(注1)が、この曲をよく知っている人であればある程、この演奏は衝撃的だったはず。
こんな滅多に巡り合うことの出来ない見事な演奏を聴かせてくれた指揮者とオケには、満場の鳴りやまない拍手と多くのブラボーで応えてあげたかった。
このコンビの、他の演奏会やCDでは聴けない解釈・演奏を聴ける可能性がある演奏会こそ、耳の肥えたクラシック・ファンにたくさん聴きに来てほしい。(注2)
切にそう願いながら帰ろうとしたロビーで、とても嬉しいことが。。。老夫人が「後援会に入ろうかしら?」とご主人に相談されておられたり、実際に後援会の申し込みをされておられるお客さんが何人かいらっしゃったり。。。お陰で「凄い演奏はちゃんと伝わるものなんだなぁ」と気分良く熊本への帰路につくことが出来ました。
ちなみに最初の未完成ですが、とても美しくも個々の演奏者の技量が問われるこの難曲に対し、延原さんがこのオケと目指した演奏。。。それはその美しさと真っ向から向き合い、小編成オケらしく重さはなく少し速めとは言うものの、細かい表情をつけて十二分に歌わせるオーソドックスと言っていいもの。
この厳しい王道を突き進もうとする延原さんの棒に一生懸命くらいつき、全力で応えようとしたオケ。特に夢のようにふわっと温かくやわらかい響きを奏でた弦楽パートの奮闘ぶりが素晴らしかったことも付け加えておきます。
さて、次回の定期演奏会のメインはブラームスの交響曲第2番とのこと。私の大好きなこの曲をどんな風に演奏してくれるのか、初めて聴いたこのコンビの演奏会がその第4番で素晴らしい演奏だっただけに、とても期待しています!
(注1)偉そうに書きましたが、そのメンデルスゾーンのスコットランドは私自身が予習不足で、その場では面白い!という感想 (注3) で、そのスゴさを認識出来たのは後に復習した時。。。努力なしに手軽に楽しみたいという最近の風潮には反しますが、やっぱりクラシックの演奏会を聴きに行くのなら、予習が大切(しかも最近はYoutubeで手軽に視聴が可能)。
もちろんクラシックの曲でもその場で聴いてもいいものはいいのですが、事前に深く知っていればいる程、より深い楽しみ・喜びをを得られることも事実で、更に知らないと寝る危険性が高まるのも同じく事実ですので。笑
ついでに言うと、復習も楽しいです。。。ザ・グレートを従来の「偉大な」演奏を聴きながらこの記事を書いていますが、大編成のオケによるこの曲もやはり素晴らしい!
(注2)意を決して、フィルハーモニア福岡の皆様に厳しいことを書きます。
もう少し本腰を入れて、集客活動をされてはいかがでしょうか?
もしかすると、いつもの「定型の」チラシ広告を手にしたクラシック愛好家の中にこんな方はいらっしゃらなかったでしょうか?
前回のベートーベンなら小編成オケならではのいい演奏が聴けるかも?と思ったけど、今回のメインはザ・グレート?小編成オケじゃあ、面白くないよ。
でももし、今回のように固定概念を覆すような凄い演奏をされるのなら、そのチラシの表紙に「世界的巨匠 延原武春が小編成オケと挑む”固定概念を覆す”ザ・グレート!」とクレジットして、裏面にその聴きどころ、キーワードでもある「飽きさせない」を煽り気味に記載。これだけでもチラシの広告価値が上がりませんでしょうか?
その他、地元TV局や新聞社の取材を呼んだり、インターネットの発達したこの時代ですので、お金をかけずに出来ることがまだまだあるのではないのでしょうか?
今回の入場率はいつもの2階席までで6割程度でしょうか?これほど素晴らしい演奏だったにも関わらず、感動を分かち合えるお客さんがこんなに少ないのは本当に残念でなりませんでした。
運営するだけでも大変だとは思いますが、是非ご一考の程、よろしくお願い申し上げます。
(注3)私がこのフィルハーモニア福岡さんの後援会に入会したのはこのメンデルスゾーンの演奏会の後で、またこのような演奏が聴けるならば、と思ったからでした。そして今回、熊本に転居したものの、演奏が始まる前に継続手続きを済ませていたのですが。。。ほら!こんな素晴らしい演奏が聴けたりするでしょ?と後づけでその決断を自画自賛した次第。笑
更には、先日行って感動した直方谷尾美術館室内楽定期演奏会を主催されておられるかんまーむじーく のおがたさんの方も賛助会員になってしまったのですが、こんな魅力的な活動をされておられる団体があるいくつもある福岡。。。頑張って通わざるを得ません。
フィルハーモニア福岡さんの以前の記事へ
第34回 (ベートーベン4&7) 第33回(メンデルスゾーン 宗教改革他) 第32回(シューマン2他) 第31回(メンデルスゾーン スコットランド他) 第30回(ブラームス 交響曲第4番他)
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