1+1+1=100
時にこんなことが起きるとは知っていました。
でも、私はこれまでそれを実感したことがありませんでした。
ボーカリスト大野えりさん、ピアニスト板橋文夫さん、ベーシスト米木康志さん。
各々が各々の分野で日本有数のミュージシャン。
70歳前後の高齢トリオなのに、ライブが始まると全員年齢不詳。
眩いまでのオーラを放ち、凄まじいまでのエネルギーを放出する3人。
40数年前からのつき合いにして、何故か組むことがなかったこのトリオ。
数年前からポツポツやるようになり、コロナ禍自粛の結果、ようやく今年実現した初ツアー。
そんな3人が初めて連日演奏した8日目のライブ。
これが、私の初めて遭遇した1+1+1=100。
終演直後は、茫然自失。
そして、生きてて良かったと思い、心からジャズを誇らしく思えた夜 (※)。
※ 誇らしく思えた「ジャズ」
「これだけ毎日やっていると、みんなのやりたいことがわかるようになってきて、またどんどん変わっていくから楽しい」これは終演後、米木さんからお聞きした素敵なお話。
一騎当千と言っていいこのメンバー / 3人という少編成 / 連日演奏するのは「初めて」 / その「8日目」 / 店の雰囲気・音響の良さ / 客のレスポンスの良さ等々、色んな条件が重なり、もの凄い高みにまで達した音楽が他でもなく「ジャズ」だった。
ジャズって、こんなにも凄いんだ!そう思えたことが、嬉しかったのです。
【注記】ここからは今回の詳細を記載。長文ですので、ご覚悟願います。
今からもう4年前※、18年11月に行った大野えりさんの「eri ohno LIVE AT PIT INN」レコ発九州ツアー。
※まさかその後、コロナ禍に襲われ、ライブに行けない時期が来るなんて思いも寄らなかったですが。。。
この時のメンバーは、類家心平さん(tp)、石田衛さん(p)、小牧良平さん(b)。
熊本・CIBで遭遇し、あまりの凄さにツアー最終日の太宰府・ドルフィーズさんまで、初めて追い掛けたライブ。
これぞまさしくジャズ!/ ヴォーカル最強楽器説に納得 / お腹いっぱい / ツアーは最終日に限る、等々、全て私の感想ですが、その時のライブは未だに忘れられない大切な思い出。
この3月、コロナ禍自粛が緩和されたことを受け、久しぶりに訪問した太宰府・ドルフィーズさんにて。
「今度、久しぶりに大野さんがいらっしゃるけど、どうする?」とマスター。
「大野えりさん?!予約お願いします!」と即座に返事したものの、その直後「(一緒に来るメンバーが) 米木さんと板橋さんだけど」「板橋さん?!本当ですか?」と叫ぶ羽目に。
大野えりさん、板橋文夫さん、米木康志さん。
こうやって名前を並べるだけでもスゴいメンバー。
米木さんは九州に来てから、一番聴きに行った大好きなベーシスト。
板橋さんも私の大好きなピアニストですが、これまで聴いてきたライブは板橋文夫オーケストラばかりで、大野さんとのライブは全くその想像がつかず、膨らむ妄想。
結果、これぞまさしくジャズ!
この3人がトリオを組むと、こんなに凄いことになるんだ!
しかも今回の目玉は、板橋さんの「渡良瀬」「Good-bye」という名曲を大野さんが歌うことですが、本当に聴けて良かった!!
と、この時点で、!マークだらけの大満足。
でも、ツアーを追い掛けて聴く楽しみはまた格別。
3日目の熊本であれだけ凄かった3人がその後、どんな風に変化 / 進化 / 深化したんだろう?と、心待ちにして迎えた太宰府・ドルフィーズさんでのライブ。最終日前日の8日目。
出だしから、しなやかさが増したとでも言えばいいのか、振れ幅の自由度が実に高い。
声(ヴォイス)という楽器を縦横無人に操る大野さんをフロントに据えたヴォイス・トリオとでも言いたくなるような3人がくんずほぐれつ、一体となって紡ぎ出すジャズ。
ドラムの不在を全く感じさせることもなく、楽しい曲は思い切り楽しく、じっくり聴かせる曲はじっくりと。
中でも、3人で奏でるppp。出ているのかいないのかわからない極限まで音を絞っていくその3人の緊張感。静寂のあまりの美しさに、鳥肌が立ちっぱなし。
1曲1曲の世界観が大きくなり、今、まさにここで生まれたとしか思えない音楽。
曲によっては、演奏が終わっても、あまりの感動ですぐに拍手出来ない程。
1曲毎に挟む大野さんのMCまで進化。
「私達、アラ古希の老齢トリオだけど、とても今回嬉しい。だって、メンバーの中で私が一番若いなんて、随分久しぶり。」
「まだまだこれから!だって、まだ最高の男が現れていないから。。。って、歌ですよ、歌!」
「若い頃、モテた訳よ。。。って、私のことじゃないわよ?」等々、笑いを誘うトークが冴えを見せていたのはもちろんのこと。
「今回、板さんと出会った40年ぐらい前の生意気で何でも出来た自分を思い出せて、良かった」
「昨日の久留米・ルーレットで板橋さんから『俺は大野えりと一緒だからこそ弾けるピアノが弾きたい』と言われて、涙が出そうになった」
等々、素敵な話が増えていました。(注1)
時に、口笛の鳥がさえずり、右手のくらげが浮遊し、時に、演劇の主人公ばりに歌の主人公になり切って演じ歌う大野さん。
変幻自在、豊かな表情、身体いっぱいに魅せるその歌の世界観。
そこに感じられる決然とした覚悟。本当にカッコいい。
そしてその横には、大きな音楽のうねりを魔法の様に見事に生み出す米木さん。
中でも、大野さんとのDUO、モンクのAsk Me Nowでの神プレイ。
凄いなぁ。。。と唖然として魅せられていたら、その曲終了直後、大野さんが「気持ち良過ぎたぁ~!」と叫び、そのままハグ。
板橋さんもピアノに戻ってくる時、「凄かったねぇ」と声を掛けられ、その直後に始まったのが「渡良瀬」。
これが板橋さん、米木さんの神プレイに呼応するかのような凄まじいプレイ。
そこからまた更にノリにノっていった3人。盛り上がる満員の客。
もうその後は、大野さんの自称「珠玉の作品」La La La You Are Mineや板橋さんの名曲に大野さんが歌詞をつけられたGood-Byeを始め、何か大きなものに飲み込まれた感じで、もう何が何だか覚えていません。
アンコールの「What a wonderful world」では、板橋さんがピアノの前に座っていた男性に叩けとばかり、スティックとゴングを渡し、無言でお願いする無茶ぶりまで発生?!
と思いきや、その男性。困った素振りも見せず、ゴングをリズミカルにうまく叩いただけに留まらず、途中で水の入ったグラスまで叩き出す等、素晴らしいプレイを披露。ヤンヤの拍手喝采(注2)。
そして、「このメンバーでCDを出すまで頑張ります。あなたの大野えりでした!」
という言葉と共に夢のようなライブが終演。
恐らく私は、今回のツアーでのライブを最も楽しんだ観客(注3)の一人。
皆様の来年再度のお越しをお待ちすると共に、それがこのメンバーでのレコ発ライブであることを祈念いたしております!(注4)
(注2)アンコールでゴングを叩き、ヤンヤの拍手喝采を浴びた謎の男性
終演後、板橋さんに教えていただいたのですが、実はこの方、昔、板橋さんを特別授業に呼んだというとても素敵でユニーク(笑)な小学校の校長先生で、板橋さんとは旧知の仲。
その特別授業で、板橋さんが「ピアノ弾いてみたい人!」と言ったら、多くの生徒に囲まれ大変だった、と懐かしそうにおっしゃっておられたのが印象的でした。
(注3)今回のツアーでのライブを最も楽しんだ観客の一人
私見ですが、ライブをより楽しむために大切なことの一つは、演奏される曲を知っていること。
それは、単純に知っている曲を生で聴ける喜びだけでなく、知っている演奏との違い、変化/進化/深化まで複層に味わえるお楽しみつき。変化を旨とするジャズなら尚更のこと。
今回の私の場合、おくらさんで全曲聴き、曲によっては、4年前の大野さんのライブで2回聴き、その時に購入した「eri ohno LIVE AT PIT INN」というライブCD&DVDで何度も視聴。板橋さんの曲も併せて、準備はほぼ万端。
ということで、自信を持って、大きなことを言ってみました。
【参考】この上のアルバム「WATARASE」には、板橋さんの7種類の「渡良瀬」が収録されていますが、その中に今回、大野さんがMCで触れられた金子友紀さんが歌ったヴァージョンも入っています。
金子さんはその幼い頃、板橋さんがその才能に驚いた民謡歌手にして、ジャズを大野さんに弟子入りされたという逸材とのこと。今回興味を持ったので、早速購入して聴いてみたのですが、これが心に強烈に響く凄演!しかも、神奈川フィルハーモニー管弦楽団との豪華共演版。
このYoutubeは上記CDとは別ヴァージョンの演奏ですが、これもまたモノスゴい熱演なので、併せてご参考まで。
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(注4)後日談:23.11.17追記
この九州ツアーの直後、このメンバーが itayoN'eri というバンド名でレギュラー化。
itayoN'eriはヴォーカルとインストバンドではなく、声(ヴォイス=サックスやトランペットと同等の表現力、説得力を持つスゴい楽器)をフロントに据えたヴォイス・トリオ。ドラムレスの不安定さを逆手に取った変幻自在の浮遊感も堪らない。まさしく、ジャズ。そして、驚くべきことに、まだまだ進化中。
とは、23年1月北九州 黒崎・Jazz Spot 風土で聴いた時に書いた感想。
更にその後、ミニCDアルバムを発売。
itayoN'eriオリジナルの代表曲と言える GoodbyeとWATARASEの入魂の演奏。
しかも2曲だけなのに、ジャズ喫茶で聴くとちょうどいい感じのレコード片面分20分の重量盤!
等と思っていたら、23年9月、本当にレコード(12インチ45回転!)までリリース。
このレジェンド級の三人が初めて組んだ奇跡のようなバンド。
そして、「今が一番歌うのが楽しい!」と公言される大野えりさんの快進撃!※
ちょっと足を伸ばすだけでこんなスゴいライブが聴けるなんて、幸せなことだと思います。
※大野えりさんの快進撃!とわざわざ書いたのは、この23.11.13に発売されたばかりの「Duke on the Winds feat. Eri Ohno」があまりにもカッコ良く、素晴らしかったから。
このアルバムは、よくある「ジャズ歌手とオケ伴奏」によるものではなく、松本治さんがアレンジ・指揮した「歌と木管アンサンブル」によるデューク・エリントン作品集。
そして、楽器としての「歌」を見込まれ、担当した大野えりさんにとっては、ジャズ・ヴォーカリストとして到達した境地をまざまざと示したモニュメンタルな作品となったのでは?
11/15、名古屋・栄にあるThe WIZで、久しぶりにライブを聴いてきましたが、今、日本でも有数の実力派ピアノ・トリオ The EROSの後藤浩二さん(p)、加藤雅史さん(b)を相手に、初顔合わせにして、丁々発止、変幻自在の素敵なライブ!
断言します。今、大野えりさんは絶好調です。
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