福岡 朝倉・古処 ⑩19/01【グランド・フィナーレ】

福岡・朝倉の喫茶 古処さんがその51年の歴史に幕を閉じられたのは、2019年1月12日(土)。

半世紀以上もの間、ジャズ喫茶という日本独自の文化を福岡の山間の街で支え続けて来られた老舗ジャズ喫茶が閉店された。

これが客観的な事実だと思いますが、その舞台裏で、マスターご夫妻がご苦労の末に良縁を見出され、お店の象徴とも言うべき銘スピーカー JBLパラゴンを新しい世代~大分・竹田のミニトマト農家 猪野家の「音と珈琲 一粒万倍(イチリュウマンバイ)」~に見事にバトン・パスされた。。。これも特筆すべき出来事だったのではないでしょうか?(注1、下の写真はマスターご夫妻と猪野ご夫妻)

そしてそのお陰で、今回の会もさびしいことには違いないけど、小さな新たな物語の始まりでもあるといった、どことなくほのぼのとした雰囲気が漂っていたのではないでしょうか?

少なくとも私は、この現場に立ち会えて良かったと改めて思っている次第です。

ということで、まず当日のファイナル・セッションですが、多くの皆さんに長年愛されてきたマスターご夫妻にふさわしい心温まるフィナーレとなりました。

開演時刻の1時間以上前から1階フロア席は既に満席、開演時刻になる頃には、奥座敷席、更には2階席もほぼ満席状態。入れ替わり立ち替わりと出入りはあったものの、最終的に100人を超えるお客さんがいらっしゃったとか。

このお店の常連さん 久山 (クヤマ)さん(注2) の司会で開会。まずはマスターとママのご挨拶。

ピシッと決められた凛々しいマスターとその横に並ばれた着物姿の奥様。満身創痍ながらも最後までやりきったという充実感が感じられる実に晴れ晴れとしたお二人のお姿に心から拍手を送る満場のお客さん達。(注3)

最初の写真のように何度も奥様の肩に手を置かれ、これまでの労をねぎらわれたマスター。。。もうこれだけで終わってもいいと思えた素敵な光景。

パラゴン等を引き継がれた猪野ご夫妻のご挨拶(注4)で盛り上がった流れの中、始まったセッション・タイムは、今回の発起人・福岡のギタリスト 奥田英理(ヒデノリ)さんと地元のヴォーカリスト 立花幸(ミユキ)さんの想いのこもった演奏から。

セッション・ホストは「これまでこのお店にはよくお世話になった」とおっしゃる中瀬亨さん(b)や福岡ドラム界の重鎮 木下恒冶(ツネハル)さん(ds)達で、ジャム・セッションでは、「頑張れ~!」と声援を受けていた高校生トランぺッター君やプロへの道を蹴り、エリート・サラリーマンの道を選ばれたドラマー君等、多士済々なメンバーが飛び入り参加。

そんな演奏を時々珈琲を淹れる手を止め、優しい眼差しで見つめられるマスター、会場全体の雰囲気を慈しむように見守られる奥様。。。どんな想いで見ておられたのか、ご本人達にしかわからないことですが、「『到達した人にしか見えない世界』ってこういうことなんだろうなぁ」等と思いながら、私は感慨に耽っていました。

ジャム・セッション以外にも、地元の音楽好きを集める企画「マイク・in・古処」に参加されておられた方のほのぼのとした演奏あり、ここで昔行われたライブ映像上映あり、ボリュームを上げたパラゴンのジャズを聴く時間ありと、和気あいあいとした時間が緩やかに流れていきましたが、終わりは必ず来るもの。

最後にマスターご夫妻がもう一度、ご挨拶、そして花束贈呈。

半世紀以上にわたる山あり谷ありの時間を着実に歩んで来られたお二人のその記念すべきゴール。。。そのあるがままのお姿はとても尊くカッコ良かったです。

満場の拍手、そして、「ありがとう!」「お疲れ様でした!」という御礼の掛け声に今度は手を上げて応えられるマスター、その横で頭を下げられる奥様。

この2年程の短い時間でしたが、マスターご夫妻にお世話になった感謝の気持ちと共に、こんな素晴らしい会になって良かったなぁ、と感無量でした。

会が終わり、身内だけの二次会に少しだけ顔を出させていただきましたが、そこでマスターから見せていただいた昔の写真やそのお話も楽しく、思い出深い夜はその後も明け方まで続いたようです。

マスターと奥様、本当にお疲れ様でした。どうもありがとうございました。

また、発起人 奥田さんを始め、この温かい会をご開催いただきましたスタッフの皆様、そしてマスター達への寄せ書きにご賛同いただきました皆様にも厚く御礼申し上げます。

(注1) 古処さんが開業されたのは、まだジャズ喫茶がブームになる前の1967年。よって、その歴史は地方におけるジャズ喫茶の盛衰のイメージどおりで、そのブームの高まりに合わせて店舗の移転、そしてパラゴンを導入され、店内改装に注力された商売繁盛期。

熱気が冷めていく流れの中、何とか維持し、ジャズ好きの常連さんが寄り集まり、また盛り返された復興期。。。そして時間の流れと共に高齢化する常連さんと共にお店も衰退期へ移行。

何もなければ恐らくこの流れのまま、静かに閉店の時を迎えられたと思うのですが、2017年7月、九州北部豪雨で朝倉が被災。お店自体にそれほど被害はなかったものの、常連さん等が被災された影響で一気にお客さんが減少。営業的に大変厳しい事態に陥り、そのままご閉店されてもおかしくない状況に。

ただ、そんな運命とも思える流れに抗われたマスターご夫妻。

マスターがバイトを始められたり、「マイク・in・古処」という新しい企画を始められたりと、お二人の必死のご努力には涙が出るくらい感激しました。

そんな中、マスターが病気でご入院されたと聞いた時には「こんなに頑張っておられるのに!」と思わず嘆息してしまいましたが。。。

後から考えると、そんなマスターご不在のタイミングだったからこそ、「あなた、お店をやらない?」という新しい世代へのプロポーズもうまくいったように思えますし、マスター達の頑張り・粘りが尋常ではない縁を呼び寄せ、今回の幸せなフィナーレにつながったように思えてなりません。

これからの人生を歩む上で、いいお手本を見せていただきました。

このタイミングでこのお二人と出会えた縁にも心から感謝したいと思います。

尚、古処さんのこれまでの歴史や上記経緯の詳細については、前回の(注1)、(注2)もご参考ください。

(注2)総合司会の久山 (クヤマ)さんは私もいつの頃からかあちらこちらのジャズ関連のイベント等でご挨拶させていただいている鹿児島在住の方ですが、このお店でレコード・ライブやライブ・イベントを積極的に企画されていた常連さんだとは知りませんでした。しかもお話を伺っていると私がよくお世話になっている八代・ファーストのマスター門下生であるとか、以前九州ジャズもん列伝で取り上げた江越秀明さんと一緒に久留米ジャズ・クラブでご活動された時期があったとか。。。そんな昔話も聞けたりして、楽しかったです。尚、「傷だらけのあいつ~アナログレコードに魅せられてアナログ三昧 、古いレコードなのでキズは付物、痘痕もえくぼ~」というシャレた名前のブログももしよろしければご覧ください。

(注3)この日の満場のお客さんの中には久しぶりにお会い出来た方も。。。先に挙げた江越さん、大牟田のジャズ喫茶 道楽堂のママ、そして、九州ジャズ☆スポットめぐりの中であちらこちらでよくお会いする福岡の名インスタ・コンビ A・IさんとR・Fさん。

まさかお会い出来ると思っていなかったので、これもラッキーでした。

(注4)さて、 お待たせいたしました!パラゴンの命をつないでくれた猪野ご夫妻についてです。

そのご挨拶はマスター達への敬愛の念と真摯な気持ちのこめられたスピーチでしたが、ウィットに富んだ発言もあり、場内爆笑、好感度抜群。

これからどんなお店が作っていかれるのか、皆さんの期待が高まったように思えました。

その新しいお店ですが、彼らにとって初めての飲食業ということもあり、「プレ・プレ・オープン」と名付けた練習期間から始めるとのこと。

具体的には、まず「猪野家のお客様として皆様をご招待したい」というお話ですので、ご希望の方は下記電話番号までご連絡ください。

猪野 美智子さん 電話番号:090-7536-7272 

【追記】彼らのお店「音と珈琲 一粒万倍(イチリュウマンバイ)」のHPはこちら   

私としては、古処さんの伝統等に対して全く気負う必要はないと思いますが、このジャズ喫茶受難の時代ですので、少しでも長くこのパラゴンが聴けるお店を作ってほしいと心から願う次第。

新マスターの生まれ年が古処さんご開業の1967年ということを始め、色々ないい縁を感じるお二人の新たな出発です。

引き続き応援しますが、気張り過ぎず、ゆるゆると頑張ってください!


<追記>こちらは後日、猪野ご夫妻からいただいたパラゴン搬出の様子の写真。。。パラゴンって、前のカバーを外したら、二つに分かれるんですね。笑

そして、こちらが新しく据え付けられた猪野邸。

もう早速、ご訪問された常連さんがいらっしゃるそうですが(笑)、私も一体、どんな音で鳴り始めたのか、最初の音を聴いておきたいと思いますので、近日中に伺ってみようと思います。

またレポートしますので、乞うご期待、です。【そのレポートはこちら


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九州ジャズ・スポット巡りを中心に興味の赴くままジャズ・クラシック等について不定期に掲載。 タイトルはM・エンデ「はてしない物語」の含蓄に富んだ言葉で、サイト主の座右の銘。 ♪新しい秩序、様式が生まれる時代の幕開けです。この混沌を積極的に楽しんでいきましょう。危ぶむなかれ、行けばわかるさ、です。笑