「九州ジャズもんの一言」の第2回は、福岡の観光地 柳川(ヤナガワ)にある老舗のジャズ喫茶 Groovy(グルーヴィ)のマスターの一言。
「アルゲリッチはジャズだ!」
最近、クラシックも聴くようになったとおっしゃるマスターの主張はこうです。
マルタ・アルゲリッチはクラシックの演奏家ではあるけど、そのライブ演奏を聴いて驚いた。一音一音が生きていて、同じ音を弾いても違う響きがする。モンクと同じ。あれはジャズだ。
その後、「途中でイャ~!と叫びそうになったけど、そこは何とか抑えた。もちろん、終演後はイャ~!と叫んだけど」という笑い話付きでしたが、これはクラシックに根っこがある私にとって、実に衝撃的な発言でした。
でもあれこれ色々考えてみましたが(注1)、クラシックであっても特に難しいことは考えず、平常心でただ目の前に目の前で繰り広げられる音だけで評価する。。。まぁ、これはこれでありなのかもなぁと思うようになりました。
そして、その聴き方、感じ方が人それぞれなのは当然ですが、柔軟な感性とマスターのように揺るぎないしっかりした審美耳(?)を持ちたいものだと改めて考えさせられた次第です。
マスターがアルゲリッチを聴かれたのは、毎年大分で行われている別府アルゲリッチ音楽祭。私もせっかく近くにいるのだから、来年は行かなきゃ!とこちらも改めて気づかされました。
それにしても、このマスター(注2)、かなりの中毒性もあるみたいで。。。早くまたお話を伺いに行きたくて仕方ありません。笑
(注1)七面倒なことを書きますので、この(注1)は飛ばしていただいて結構です。
確かにジャズ・ライブでは、その曲を知らなくても別に問題なし、が一般的な常識。もちろん原曲があればそれを知っていた方がより楽しいですが、事前に曲がわからないことも多く、感覚的にもその良さはわかりやすい。
それでは、クラシックの場合はどうか?
確かに、クラシックで名演を褒めたたえる言葉の一つとして「何度も聴いた曲なのに、初めて聴く曲のように聴こえた」というものもありますが、これは逆に、良く知っている曲だからこそ味わえる感動です。またそこまで知らなくても、予習しておいた方が絶対に楽しい!演奏曲目がわかっていることが多いクラシックの場合、これも一般的な常識だと思います。
というのも、クラシックの楽しみは演奏者の表現能力だけでなく、その楽譜の解釈の違いにもあるから。。。そういう意味での超怪演がちょうど先日行われた延原武春指揮 フィルハーモニア福岡のシューベルト交響曲ザ・グレートでした。あの演奏ならその音だけでも感動出来たとは思いますが、聴き慣れている人ほど衝撃度が強かったはず。余計なお世話だとは思いますが、もっと感動出来たはずの演奏が、もったいないです。
更にこちらの方が大切かもしれませんが、知らないクラシックの曲は私であっても眠くなることが多い、とてもキケンなものだから。
その一方、この時にマスターがおっしゃった「B.B.キングのように1音で持っていくことが出来るプレイヤーもいる。音楽は音の集合体」というお言葉が今回、考え直すキッカケとなったキーワード。
実はクラシックでも「全体は覚えていないけど、あの瞬間の響きのスゴさだけは忘れられない」というのもよくある話で、そう考えた場合、そこに鳴っている音が全てでその音の集合体が音楽という聴き方もあるかも、と思い直した次第です。。。初心者にはとてもオススメ出来ませんが。笑
(注2) マスターは今年69歳ですが、60年超の老舗旅館さいふ屋(宰府屋)さん(注3)の3代目のご主人でもあり、また有明海の再生を目標としたNPO法人「SPERA森里海・時代を拓く」の代表でもあります。
中学時代はビートルズにハマっておられたそうですが、アート・ブレイキーの音を聴いてジャズに目覚められ、’67年には長崎のラジオでコルトレーンの訃報「悲しいお知らせ」を聞かれたという高校時代を過ごされた(尚、福岡では進駐軍の放送がロック主体だったことから、そちらが盛んになったとか)後、久留米の老舗ジャズ喫茶ルーレットの初代マスターの下で働かれた経験もお持ちで。。。そういう意味では同じく久留米の老舗エイトモダンのマスターの後輩に当たられる方でもあります。
そして、ルーレットのマスターにはビ・バップ以前も徹底的に鍛えられたそうで、サッチモの音のスゴさ等もその時に学ばれたそうです。
あと、マスターの一番の特徴と言えば、このお店Groovy(グルーヴィ) さんについて以前アップした時にも書きましたが、とにもかくにもおしゃべり好き(注4)。
「厳しいことを言うけど」から始まる辛口コメントを挿みつつも次から次へと話題が尽きない。。。しかも、ジャズが基本ですが、音楽が好きで仕方ない感じが伝わってくること、及び、マスターのキャラクターでしょうか?嫌みもなく、もう楽しいことこの上なし。
門司港・六曜館さんで聴いた徳永英彰(g)さんの恩師ジャコ・パストリアスの写真集等を撮られ、現在東京・三軒茶屋のJazz & Cafe Gallery "Whisper"の店主でもある写真家の内山 繁さんやギタリストのソンコ・マージュさん、「SPERA森里海・時代を拓く」を一緒に推進されておられる京都大学名誉教授の田中克(マサル)先生等々、ご親交のある方々のお話や、これまで聴きに行かれたライブ、先ほど少し挙がったモンクやデクスター・ゴードン、チェット・ベイカー等の逸話も本当に面白かった。
秀逸だったのは、マスターが大好きとおっしゃるモンクとの逸話。ライブ終演後、楽屋にサインをもらいに直行。一番最初に並び、サイン・プリーズ!とお願いされたまでは良かったものの、黒いサインペンが間違ってモンクの手についてしまうアクシデントが勃発。190cm超もある大男、モンクがぶるぶる震えながら声にならない声を上げ、手を振り上げて大激怒!楽屋中が凍りつき、ソーリー!ソーリー!と懸命に謝るマスター。トンデモない事態に。。。最終的には事なきを得たそうですが、全く生きた心地がしなかったとか、後ろで並んで一緒に青ざめていたのが同じく柳川の老舗ジャズ・バー ファンクールのマスターだったとか、身振り手振りを交えながらのマスターの大熱演(?)に抱腹絶倒。大爆笑させていただいただきました。
(注3)柳川は長期滞在型逗留地として発展したことから、著名人や文化人も多く宿泊されたそうですが、その後の交通の便の発達に伴い、日帰り観光地化してしまったそうです。
(注4)マスターのおしゃべり好きが、まさか長崎・波佐見にまで広まることになるとは。。。これにはさすがに苦笑させていただきました。詳しくは、こちらの記事をご覧くださいませ。【長崎・波佐見のJazz Spot Doug(ダグ)④18/07】
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