大阪・京橋にある、知る人ぞ知るお店 NONSY!(ノンシー)さん。
奥に長細い店内に入ると、お客さんが誰もおらず、目の前のカウンター席でおられたマスターと真正面からご挨拶。。。物腰は柔らかいものの、何とも表現しがたいオーラのあるマスターに警戒警報発令!
いつ頃からジャズをお聴きになられておられるのですか?
ついついマスターに聞いてしまうこの質問が「一番説明しにくい」と苦笑いされるマスター。曰く、物心ついた頃からジャズが好きだったから(注1)。
もちろんこれは後でお聞きした話ですが、こんなことをさらっとおっしゃり、お客様とのハードなやり取りの伝説(注2)も数多くお持ちのマスターのお店。。。私のキケン察知能力も捨てたものではありません。笑
奥にあるオーディオを確認する余裕もなく、マスターに勧められるまま手前にあるカウンター席に着席。珈琲を注文した後もあまり店内を見回すこともせず、鳴っているシダー・ウォルトンのCEDAR!をずっと聴いていたのですが、これまで聴いたことのない音に疑問符だらけ。
何だろう?この粒立って見えるようなベースとピアノの音。何でこんなにクリアによく聴こえるんだろう?でもこうやって聴こえると、すごく気持ちいい!この音を鳴らしているシステムは何?!
それまで大人しくしていたのに、我慢出来なくなってお店の左奥を覗き見てしまったのですが。。。
え?パラゴン!?
次の瞬間、我を忘れ、思わず叫んでいる自分がいました。苦笑
マスターに「なんや、お前?」みたいな顔をされてしまい、しまった!と思ったものの、それより何故パラゴンが縦に置かれているんだろう?何故パラゴンの前のベスト・ポジションと思われるテーブル席が座れないように封鎖されているんだろう?と、鳴っている音だけでなく、セッティングにまで拡大する疑問符。
このJBLの銘スピーカー 初期型パラゴン(注3)を中心としたオーディオ・システムは、マスターが100%ジャズのインストゥルメンタル曲を聴くためだけにセッティングし、チューニングされたもの(注4)。
最初の大失態が逆に良かったのか、背伸びすることなく素直に自分のレベルをさらけ出したのが良かったのか、ジャズとオーディオにおいて基本的に押さえるべきことから、PCオーディオのススメ(注5)や美味しい珈琲の秘密(注6)に至るまで、私のレベルでもわかるように懇切丁寧に色々なことを教えていただきました。また、私も楽しくて時間の許す限り滞在したのですが、あちらこちらに話が逸れ過ぎて(注7)、一番お聞きしたかったジャズの話にまでは到達せず、残念ながら時間切れ。
しかし、このお店が近くになくて残念。。。で終わらないのが、またスゴいところ。
最後に、ほとんど何の先入観もなく、このお店のことを教えていただいた神戸のらうさん(※)に心から感謝いたします。
(※)こちらはご存知、関西ジャズ愛好家ご用達のフリー・ジャズ情報誌「WAY OUT WEST」ですが、らうさんがこのお店についてご執筆されておられるのがこの2019年2月号。
併せて、その記事もどうぞ!
(注1)マスターがまだ幼かった頃、TVのゴールデンタイムで流れていたアメリカのドラマ「鬼警部アイアンサイド」が何故か大好きだったとのこと。
中学生になってそのワクワクしていた原因がそのオープニング・テーマで、それ以降もジャズ的なものに魅かれてきたご自身の嗜好に気づかれたのだそうですが、それ以降の話もお知りになりたい方はこちらへどうぞ。
(注2) 途中でいらっしゃった常連さんから教えていただいたのですが、ご開業された当初は毎日お客さんが追い出されてたとか。。。
ただ、現在このお店は「ジャズ喫茶」の看板は下ろされ、「喫茶 洋酒のお店」として営業しておられますので、相当な知ったかぶりをしない限り、そのようなことはないと思います。多分。笑
(注3)この初期型パラゴンをマスターが見初められたのは、ジャズ喫茶を始めるに当たってのオーディオ探しでアメリカン・サウンドさんに行かれた時のこと。この初期型(16Ω)がたまたま置いてあったのだそうですが、その音を聴かれて天地がひっくり返る程、感動。横に置いてあった半額以下で買える中期型(8Ω)とは全く別物だったそうで、購入決定。初期型はパラゴンの中でも大変希少なものだけに、縁があったとしか言い様がありません。
尚、ご開業時の縁と言えば、(注6)で後述する珈琲豆を探しておられた時にも同じようなお話が。。。このお店の珈琲豆は、関西人にはお馴染みUCC上島珈琲の会長も一目置かれる方のお店から卸しておられますが、そこにお願いするようになったのも、やはり縁。
マスターがお願いしに行かれた時、当たり前のように「誰からの紹介で来たの?」と聞かれ、「いや、このお店の珈琲が好きで通っていたから」と答えたところ、驚かれたのだとか。。。これは単に、マスターの嗅覚が優れていただけかもしれませんが。
(注4)マスターのご主張は、以下の3つの言葉に集約出来るような気がします。
1. ジャズをオーディオで鳴らす時に大切なことは、全ての音がしっかり聴こえること(ベースが聴こえないとコード進行等が理解出来ない)とそのバランスを取ること。
2. 一つのオーディオで全ての種類の音楽を100%鳴らすのは無理なので、もしそうしたければ割り切りが必要。
3. オーディオ再生の最重要項目は録音(もっと重要なのは記録された演奏の内容だけど)。
マスターがこのお店で鳴らしたいのは、先にも書いたとおり、ジャズのインストゥルメンタル曲(※2)ですが、そのためだけに、それが出来るオーディオ機器を選択。。。先にご紹介した初期型パラゴン、プリ・アンプMacIntosh C-20(※3)、パワーアンプJBL SE400S(一関・ベイシーさんと同じもの。。。こう指摘したら、マスターが露骨に嫌な顔をされます。笑)といった往年の銘機が勢揃いしたのは、結果論。
全ての音がすっきり浮かび上がって聴こえるだけでなく、相当な大音量にも関わらず会話をしても聞き取れる程、瞬発力のある音響は、そのチューニング、部屋の残響をデッドに仕上げたこと(※4)等にその秘訣があるそうですが、全ての調整がマスターの「音の記憶力(※5)」によって為されておられるのもスゴいところ。
このお店に限りませんが、ジャズ・マニアとオーディオ・マニアが高いレベルでバランスしているマスターのお話は、どれだけ長い時間お聞きしていても興味が尽きません。
(※2)シンバルやブラシの音を強調したシステムでヴォーカルを聴くと、周波数が被るので、サ行や破裂音がキツく聴こえてしまう等、ヴォーカルとインストゥルメンタルの両立は難しいとのこと。
ちなみに瞬発力のお化けみたいなこのシステムで聴くオーケストラは、マスターご自身も苦笑いされておられましたが、タンノイ・ユーザーである私にとってはかなり厳しかったです。。。パット・メセニーによるスティーブ・ライヒのエレクトリック・カウンター・ポイントはさすがでしたが。
(※3)1960年代に使われていたこのプリ・アンプにはこれまで私の見たこともなかったツマミが。。。お聞きしたところ、レコード会社は1950年代半ばに出来たRIAAという統一規格を使うまで、それぞれのイコライザーカーブでレコードを制作していたため、レコード毎にこのRECORD COMPENSATORというツマミで低域や高域を補正してあげないと制作者の意図した音にはならないのだとか。何ともレコード再生の奥の深いこと!勉強になりました。
尚、イコライザーカーブについて面白い記事がありましたので、こちらをご参考まで。
(※4)以前、宮崎・ライフタイムさんと長崎・波佐見のDoug(ダグ)さんの記事で取り上げた「ジャズはデッド?」議論再発か?!とこの時は思いましたが、私の中では結論めいたものが見つかりました。。。詳しくは後日ご紹介する小倉のオーディオ・ビキンさんの記事にて。
(※5)音の記憶力。。。この話も詳しくはこのマスターのメルマガをご覧いただきたいですが、私自身にその能力がないことは南阿蘇のウッドサイド・ベイシーさんで自覚したとおりで、耳に痛いお話でした。
(注5)PCオーディオのススメ。。。予めお断りしておきますが、マスターのご主張はあくまでCDのベストの鳴らし方であって、レコードと競争してのお話ではありませんので、誤解なきよう。
CDがプレイヤーによって音の違いがあること、またその大きな要因の一つがデータをピックアップする際の読み取りエラーにあることも、オーディオ・マニアの方には自明の話。
では、原理的に読み取りエラーをなくすためにはどうすればいいのか?通常のプログラムを読み込む際にはチェックデジットを使って100%読み取りエラーがないのだから、それと同じ方法(リッピング・ソフト)を使えば良い。。。いやいや、理論的には正しいことはわかりますが、英Chord社のCDトランスポーターBlu愛好者としては、聞かなかったことにします。苦笑
(注6)美味しい珈琲の秘密。。。まだまだよくわかってはいませんが、マスターの高い嗜好レベルとお客さん第一というお心遣いから生まれてきているのは間違いありません。
自家焙煎全盛期にわざわざ自家焙煎を選ばない誠実さ。。。曰く、珈琲豆は農作物。毎年の豆の出来具合を見計らって、同じ味を継続して作り出すことは自分には出来ないから、プロ中のプロにお任せする。
わざわざスピーカーの聴くベストポジションをその真ん前の2~3人だけではなく、カウンター席のお客さんになるようセッティングされたというお心遣い同様、プロ意識の高さとはかくあるべしと感心しきりな逸話でした。
(注8)マスターのブログのインデックスはこちらですが、現時点で私の面白かった頁にリンクを貼りましたので、ご参考まで。
しかし、集中的に読んで思いましたが、やはり実体験は大切。そのミュージシャンのライブを一度聴いたら、CDで聴いても何となくその音や雰囲気を修正して聴けるのと同じで、この記事を読んでいると、マスターの声が聞こえてくるような気がしました。笑
【付録】パラゴンの特徴と鳴らす際に工夫するポイント
・パラゴンの最大の特徴はオール・ホーンであること。
・その3つのホーンが通常のスピーカーとは違い、バラバラの位置に配されているため、タイムアライメントが合いにくいこと。
・その結果、3つのホーンがバラバラに鳴り、ヤマタノオロチみたいになりやすいこと。
・それを1つのユニットが鳴っているように聴こえるようにセッティングすること。
・低音をこの短いホーンだけで出すのは難しいが、パラゴンがフロア型である理由は床をホーンの延長として使うためなので、あまりその位置を高くしてはいけない。
・ホーンの特徴を生かすためにはある程度の音量が必要。
・パラゴンには種類が多数あるので、どのユニットが使われているタイプか把握して、対策を練ることが大切。
・割ったら取り返しがつかないので、前面の突き板を外す時は絶対に一人ではやらないこと。。。立ち往生して、30分ぐらいアブラ汗を流す羽目になる。笑
【駐車場:無、喫煙:不可】
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