長崎・波佐見(はさみ)の30年超の老舗 Doug(ダグ)のマスターは、ジャズの楽しさを体現している方。
その高いレベルでうまくバランスしているジャズ・マニア度とオーディオ・マニア度を体験すれば、「ジャズを楽しむのにより大切なものは、いい音源? or いい音?」というバカげた議論の答えはすぐにわかります。
その他にも釣り師※、彫り師(有田焼用ゴム印)、九州ジャズ・ユニオン会長等々、色んな側面をお持ちな上、おしゃべり好き&サービス精神も旺盛なので、雑談も尽きることはありません。
※今回久しぶりに再訪したら、コロナ禍自粛の暇に飽かせて、ウキまで作られたとのこと。しかも、そこに書かれた釣りの雅号「磯秀(キシュウ)」はそのゴム印から作られたのだとか。
どの街からも遠いこの波佐見という場所で、30年以上にわたり、地道にジャズ布教をしてこられたその成果は、常連さんは当然のことながら、そのライブに来られる多くのお客さんのジャズ度の高さ。
音のいい箱(この店)に、凄いミュージシャンが来て、レスポンスのいい満員の客が迎える、と、ジャズってこんなに楽しく、ご機嫌になれるものなんだ!と実にわかりやすい店でもあります。
尚、この店で録られたそのライブ音源も秀逸。その内容・録音共にクオリティの高さは保証いたしますので、併せて是非お聴きください。
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【以下、初訪問時2017/08の記事を転載、22.9.22一部追記/改訂・写真追加】
長崎の焼き物の町 波佐見(はさみ)にあるDoug(ダグ)さん。
その前に訪問したハーモニーさんで癒され、どんどんまた行きたいお店が増えて大変だなぁ、等と思いながら、平和な気分で大村湾岸の下道をゆっくりドライブ。1時間半程で無事に到着。
県道沿いにある事務所と一緒になった小さなビルの1階、横に数台の駐車場有。入口の扉に飾られている”Doug”のステンレス製ネーム・タグはハーモニーのマスターの作品。
しかし、今、思い返しても油断大敵、大失敗。
隙のない店構えを見て、少しは気を引き締めるべきだったのに。。。
中に入ると軽くて明るい大きな音、奥に鎮座しているごっついスピーカー。まさかミニスピーカー(注1)がそのスピーカーの上で鳴っている等とは夢にも思わず、この店の音だと勘違い。
ハーモニーでお聞きしたお話や「九州ジャズロード」の紹介文から、マスターは「単に」陽気でノリのいい優しい方という先入観。初めて行くお店なのに、全く緊張感もないまま、マスターと話し始めてしまいました。
じゃあ、と言って、始まった寺島レコード10周年記念盤「大橋祐子トリオ ワルツNo.4 スタジオ録音&ホール録音」(注2)の聴き比べ。何の心構えもないまま、このお店のメインスピーカー アルテック604-8Gから放たれた寺島靖国プロデュース盤の熱い音の塊を浴びたものだから、さぁ、大変。
いきなり度肝を抜かれ、もう最初からノックダウン。苦笑
その後に盛り上がったのは、私の大好きなピアニスト吉岡秀晃さん。このお店で何回かライブを演ってもらった、最高71人のお客さんが来た、吉岡さんはバック・ミュージシャンによって演奏が全然変わるから、このぐらいのメンバーで演らないとダメ等々、マスターの吉岡さんへの愛情を怒涛の如く浴びせられた上、その時のライブ録音を聴かせていただいたのですが、これがまた異常なまでの熱演!もうメロメロ。
更にダメ押し、波佐見町文化会館オーブン記念ライブの録音。上記の吉岡秀晃トリオに大御所 渡辺貞夫さんを加えたスペシャル・メンバー!これも素晴らしい演奏で、吉岡さんのいつもとはまた違った演奏スタイルに大感激。
また常連さんと、モノラル・レコード針を新しく仕入れたからと、その聴き比べをされて一喜一憂されるそのマスターの姿は、まさにオーディオ・マニアそのもの。
そんなマスターの肩書きの一つは、九州ジャズ・ユニオン代表で、ジャズ愛好家としてもオーディオマニアとしても、なるほどと納得。
これまでに行ったお店のことやまだ行っていないお店のことを教えていただき、それもまた楽しかったのですが、最後に辿り着いたのは、NPO法人 波佐見講堂ファンクラブ代表(注3)というもう一つ肩書きについて。このお話から、この講堂で行われた室内楽の生録音を何種類か聴かせていただいたのですが、そこで改めてこのお店のオーディオの素性・響きの良さもわかったり。
ただ、「ジャズだけでなく、クラシックも綺麗に鳴りますね」という私の不用意な感想に「いいオーディオはジャズとかクラシックとかジャンルを選ばないんじゃない?」という最近聞かれなくなったオーディオ・マニア王道(注4)のご発言。確かに今回聴かせていただいた録音はどれもそのモニター系の感度の良さが生きて、本当にいい音・音楽が鳴っていましたので、その台詞にもただただ唸らされるのみ。
実に濃密な時間で、半端ないエネルギー感のマスターとそのシステムが描き出すジャズの鮮烈なエネルギー感=強烈な音圧に、終始、圧倒されっ放し、翻弄されっ放し。
夢中になっていると時間はいつの間にやら飛び去ると言いますが、本当にあっと言う間の4時間でした。
そして今回の経験を経て、ジャズ・スポット巡りにはまた別の楽しみ方があることに気づきました!
それは、ライブをされるお店に限りますが、そこで演ったライブの生録音を聴かせていただくこと。
市販のレコードは当然それはそれでいいのですが、そのお店のマスターご自身がそのライブを企画され、してやったり!想像以上の凄演!一生忘れられない演奏!等々の思い入れや感動をもしそのまま録音に落とし込まれていたとしたならば。そして、その一期一会の奇跡的な時間をご自慢のオーディオで再現していただけるのであれば。これは、ジャズ/オーディオ・マニアならではの快楽であり、こんな贅沢なことはありません。
以前、北九州の風土さんでも同じ喜びを味あわせていただいたのですが、再度足を運びたいと願っているのはまさにその快楽が忘れられないからであり、今回、その記憶が蘇りました。
そこにしかないもの、を求めて客は集う。マスターとのおしゃべり、店の雰囲気、酒・珈琲同様、その店でしか聴けない音源も同じではないかと改めて思った次第です。
いずれにせよ、マスター。今度伺った際も、また今回のようなスゴい演奏を聴かせてください。よろしくお願いいたします!
<追記>今回、他のお店ではほぼ味わうことが出来ない強烈な音圧を浴びて、久しぶりに思い出したのですが、オーデイオ評論家 故長岡鉄男氏が最晩年に「オーディオ趣味の快楽の一つは強い音圧だが、それを長い時間浴び続けると血圧が上がるので、体には悪い」という趣旨のことをおっしゃっておられました。
マスター、お体にはくれぐれもお気をつけくださいませ。
(注1)お客さんが入る前で、お客さんの「安くて良く鳴るミニスピーカー」という依頼のために買ったスピーカーで、どの程度鳴るのか試聴されていたとのことでしたが、確かにサイズ感を無視して良く鳴るスピーカーでした。苦笑
(注2)先日、ミュージシャンから寄贈されたばかりというこの2種類のレコードとCDは、前日佐世保のBessie Smithさんでも教えてもらったのですが、あちらではおしゃべり主体でまともに聴けず(苦笑)、気になっていた盤でした。
ちなみに、スタジオ録音盤は寺島さんがプロデュースしている鮮烈な音が売りで、もう一枚のホール録音盤は日本オーディオメーカーの雄ESOTERICのクラシックCDリマスタリングで有名になった大間知氏のプロデュースで、自然なホール・トーンが売り。
この録音、プロデューサーの違いは嗜好の問題だけだと思いましたが、レコードとCDというフォーマットの違い、もちろん機器の能力の差も含めてですが、レコードの圧倒的な音圧の強さを体感することが出来たことは面白かったです。
(注3)このNPO法人は、響きの良さが旧カザルス・ホール並みと言われたこともある波佐見講堂。ネットで見つけた写真を拝借しましたが、何とも優美なたたずまいです。
その保存運動のために作られたそうで、現在講堂自体は目的を果たして町の取り壊し決定を覆し、保存改修が進んでいるそうです。
(注4)「原音再生」という言葉同様、死語かと思っていた「いいオーディオはジャンルを選ばない」という言葉、考え方。簡単に言えば、いいシステムで聴けば、ジャズもクラシックも満足出来る、ということですが、その「満足」をどこに置くかによって話は変わるので、簡単にはなり得ません。
曰く、レコードの年代、レーベル、プロデューサー、場所等の録音の違いがある上、クラシックならオーケストラから室内楽まで幅広い分野がある、ジャズなら楽器の音色を出したい等々嗜好もあり、それぞれ追い求めたい「満足」が違う訳です。
そこで、考え方が分かれてくるのですが、昔は南阿蘇のWoodside Basieさんのような大音量・原音再生からのアプローチのマニアが多かったと思うのですが、最近は「そんなの一つのシステムで鳴らすなんて無理!」と割り切っておられる方が多いように思います。(その鳴らしたい音楽毎に合うシステムを何通りもユニットから本当に組み上げている驚愕のお店が、同じく南阿蘇のオーディオ道場さん。)
ちなみに、この件についてのマスターのお考えは「優秀な機器を揃え、鳴らす空間まで含めてその能力を最大限引き出してあげれば、ジャンルを選ばないシステムになる」でしょうか?最後はその人の音楽性そのものに起因することになるので、やはり奥が深い話です。
【駐車場:有、喫煙:可】
九州ジャズもんの一言「釣りの極意は想像力」
⑤19/06【祝!30周年&記念ライブVol.2 鈴木良雄トリオ】
その他 ②17/09【ライブな音デッドな音】 ③18/01【菅野沖彦先生】 ④18/07【釣りとジャズ】 ⑥20/05【色紙】
九州ジャズ・ユニオン 第27回18/03 第28回19/03
※このお店は弊著「九州ジャズ・ガイド 第①号( ↓ )」にも掲載されておりますので、よろしくお願いいたします。
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